Jをめぐる冒険BACK NUMBER
J1初残留達成の湘南・曹監督の哲学。
目先の結果より、成長を志した末に。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/10/22 10:40
大学時代に特別指定を受けて以来、湘南一筋の永木亮太。2013年からはキャプテンを務めるまさにチームの支柱だ。
曹監督「僕は二兎を追って二兎得たい」
今年3月のことだ。浦和レッズとの開幕戦で、後半に入ってペースダウンして1-3で敗れた数日後、曹監督にこう訊ねた。J1を戦い抜くために何が必要か、と。
「J1は個人能力が高いから、J2では体を寄せたら奪えていたところが奪えなかったり、通せていたパスが通せなかったりする。でも、それでチャレンジをやめてしまったら元も子もない。しっかりと顔を出してパスが通るようにしなければいけない。パスコースを作れていないから、蹴って奪われたり、出しどころがなくて奪われてしまう。だから、走れなくなったことが問題ではなく、走れるような状況を作れるようにしていきたい」
そして、こう続けた。
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「“二兎を追う者は一兎をも得ず”っていうけれど、僕は二兎を追って二兎得たい。カウンターも狙うし、ボールも回す。勝利を求めるし、内容も追求する。どちらかひとつという考えは、僕にはないんです」
自らに限界を設けてしまっては成長できない。
昨日よりも今日、今日よりも明日の自分たちが成長しているかどうか――。それが曹監督にとって大事なことであり、湘南が2年連続してJ1で戦えることになった要因だろう。
羽生「良い監督は、成長できると思わせてくれる」
残留を決めた日の対戦相手であるFC東京の羽生直剛にかつて、こんな話を聞いたことがある。
「選手にとっての良い監督って、自分を使ってくれる監督だとよく言いますよね。でも僕にとっては、成長できると思わせてくれる監督が一番。印象に残っているのはオシムさんのときで、試合に出られていない選手たちも『あの人はいい監督だ』と言っていたんです。出ていた僕はもちろん、出ていない彼らも、オシムさんの元でなら成長できる、上手くなれる、勉強になると思っていたんじゃないかな」
同じことが、今の湘南にも当てはまる。
昨シーズン、湘南に期限付き移籍していたFC東京の丸山祐市が、当時のこんなエピソードを披露してくれた。
「試合に出られていない選手たちが、すごく楽しそうに日々のトレーニングに参加していたんです。それを見て驚きました。過去2年間、東京で試合に出られず腐っていた自分が恥ずかしくなったというか、もったいないことをしたなって思いました」
オシム時代のジェフ千葉と曹監督に率いられた今の湘南が、どちらも溌剌とハードワークをこなし、冒険的なサッカーをしているのは、決して偶然ではないはずだ。