スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
スペイン女子代表がW杯後に“反乱”!
全選手とリーグが監督に退任要求。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2015/07/09 10:40
W杯前の撮影で、スペイン代表チームのメンバーはカメラに向かっておどけて見せた。選手同士の仲はいいことが伝わってくる。
あまりに杜撰な大会準備と、女性蔑視発言。
大会2カ月前から1つもテストマッチを組まず、気候対策もなく、初戦の前日に現地入り。チームスタッフによる対戦相手の分析は当てにならず、選手たちが自ら映像を入手して対策を話し合った。
そんなアマチュアレベルのチーム運営が、世界有数の指導メソッドを誇るサッカー先進国の代表チームで行なわれていた。なかば信じ難い話であるが、それが事実だとしたらワールドカップでの無策ぶりも納得できる。
ケレダは1988年より27年間も女子代表の監督を務めてきた、スペイン女子サッカー界の重鎮だ。ラ・ロヒータの試合を中継していた国営局のスポーツチャンネルは、彼のことを「女子サッカー界の発展に尽力してきた功労者」と紹介していた。
だが選手たちの言葉によれば、これまで代表の強化が進まなかったのは彼のせいであり、彼こそが女子サッカー界の発展を阻んできた元凶だったということになる。
しかもケレダは選手を「ゴルディータ(おデブちゃん)」と呼ぶなど女性を蔑視する言動が多く、言うことを聞かない選手は二度と代表に呼ばないという独裁的なチーム運営を長年行なってきたというからタチが悪い。
「過去にも多くの選手が精神的に追い詰められた」
今回の“反乱”を受け、帰国したマドリッドのバラハス空港で取材陣に囲まれたケレダは「今まで何の問題もなかったので驚いている」と言っていたが、実際には過去にも選手たちが同様の訴えを行なったことはあった。
だがケレダの友人であり、彼に女子代表強化の全権を託した当人であるスペインサッカー協会のアンヘル・マリア・ビジャール会長は、それらの声を無視して問題に蓋をし、結果として反乱を起こした選手たちが代表でプレーする機会を奪われてきたのである。
コスタリカとの初戦で、歴史に残るW杯初ゴールを決めたビッキー・ロサダは訴える。
「私は4年しか代表でプレーしていないけど、泣きながら練習場を出て行く選手を何度も見てきました。詳しいことは言いたくないけど、色々なことが積み重なり、精神的に追い詰められた選手が何人もいるんです。女子サッカーのために戦った選手もいたけど、彼女たちの抗議に対する答えは、二度と代表に呼ばれなかったという事実だけ。私たちはそんな扱いを受けるようなことは何もしていません」
これまで彼女たちがそんな監督の横暴を黙って耐えてきたのも、それでワールドカップに出場できなくなることを恐れていたからに他ならない。