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武藤嘉紀の移籍金4億円から考える。
「売れる」ようになった日本、次は?
text by
並木裕太Yuta Namiki
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/06/10 11:00
今年の3月に慶應義塾大学を卒業したばかりの武藤嘉紀。卒業から4カ月でブンデスリーガへ移籍するというスピード出世は、長友佑都を彷彿とさせる。
日本的な契約が、欧州に足元を見られる。
よりハイレベルでステータスの高い欧州でプレーしたいと考える選手と、目先のチーム強化のために有力な選手を獲得したいJクラブの思惑が、「海外クラブからのオファーがあった場合に、極めて低い移籍金で(あるいは移籍金ゼロで)移籍を認める」といった形で契約に盛り込まれるケースが多く発生しているのです。
選手は成長したい、クラブはその成長を応援する。良く言えば日本的で愛情のある契約条項ですが、選手を育成したクラブには金銭的な見返りが乏しく、欧州のクラブからは足元を見られるというデメリットがあるのも事実です。
実は選手自身にとっても、安い移籍金はマイナス。
さらに実は選手自身にとっても、低い移籍金は決して歓迎すべきものではありません。移籍自体はスムーズに運ぶかもしれませんが、その後の扱いに影響する場合が多いからです。
欧州のトップクラブは、トップチームの出場選手登録枠を大幅に超えた毎年100人近くの選手と契約を結び、多くをレンタルアウトしています。幅広い選手に投資してその中からベストチームを組み、残りの選手は育てたり売ったり、あるいは契約を満了させるというビジネスモデルを採用しているわけです。
そうなると、数千万円の移籍金で獲得できる選手はまず他のクラブにレンタルされ、芽が出なければ契約を切ってしまう。言ってしまえば「当たったらラッキー」くらいの感覚でしかないというのが正直なところでしょう。
やはり選手も、移籍金という形で高く評価されたうえで海外に挑むことが、その後の飛躍につながる可能性が高くなるのです。300万ユーロという金額は、移籍情報サイト『Transfermarkt』によればマインツ史上2番目に高い獲得移籍金とのことですから、主力級の評価の表れでしょう。武藤選手がチェルシーのオファーを断りマインツを選んだのも、そうしたことを考えたうえでの判断だったと想像できます。
これらのことから、今回の武藤選手のケースは「Jリーグ→欧州」の移籍のカタチが、いわば正常化しつつあることを示したものであると思います。