フットボール“新語録”BACK NUMBER
ベンゲルが語るW杯“第3のトレンド”。
「カウンターに人数をかけろ!」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2014/07/23 10:30
決勝トーナメント1回戦のギリシャ戦、先制点を決めたコスタリカのブライアン・ルイスをチームメイトが祝福する。コスタリカは彼を中心に次々とカウンターを仕掛けていった。
低い位置でボールを奪い、ゴール前に突進する。
開催国のブラジルは「アタックに人数をかける」という点で、まさに今大会の象徴的チームだった。
今大会のブラジルは中盤の組み立てを省略したロングボールが多く、ボールが空中を飛んでいる時間が長かった。だが、ひとたびゴール前にボールが運ばれると、どんどん選手たちが集まって来る。ジーゲンタラーはこれを「1958年W杯の4-2-4への回帰」と表現した。もはやブラジルにとって「全体をコンパクトにする」ことは約束事ではなかった。
その欠点を補うために戦術的ファールを利用していたが、ドイツとの試合では“情報戦”によってそれを封じられてしまった(W杯準決勝・ブラジル対ドイツの戦術的攻防についてはNumber 857号を参照)。
準優勝のアルゼンチンはアタックに人数をかけないという点で他の南米チームと哲学が違ったが、中盤省略の傾向は同じだった。
話をまとめると、今大会のトレンドはこうだ。
「中盤を省略して、アタックに人数をかけたチームが躍進した」
低い位置でボールを奪うと、一気に数人が前線へ駆け上がり、本能の赴くままにゴールに突進する――。その情熱的な姿勢が、大会の象徴になった。
中南米勢の極めて高い「ドリブルで運ぶ」能力。
それにしても、なぜ南米および中米のチームは、そこまでカウンターに人数をかけても、“カウンター返し”を食らわずにすむのだろう。その謎を解く鍵は、「ボールを運ぶ」能力にある。
ブラジルW杯では、南米や中米のDFが最終ラインから平気でドリブルを仕掛けるシーンが見られた。DFでさえこうなのだから、FWとなるとさらに強気だ。数的不利でもドリブルで仕掛ける。
彼らの価値観の中では、ドリブルができなければサッカー選手とは呼べないのだろう。1人ひとりのボールを運ぶ能力が極めて高いため、カウンターの際に「もしボールを失ったら?」という万が一のミスに気を取られずにすむ。