ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
史上初3階級制覇と言うけれど……。
亀田興毅を手放しで祝福できぬ理由。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO
posted2010/12/27 11:45
12月26日、亀田3兄弟の長兄、興毅が国内史上初となる世界3階級制覇を達成した。
一方的な試合内容。文句のないジャッジ。日本人初となる偉業。本来であれば祝福すべき快挙にもかかわらず、気が重いというのが正直な感想だ。やはりこの試合、ひっかかるところが多いのである。
試合が発表された時点で嫌なムードは漂っていた。その理由は第一に、今回の試合が王座決定戦という事実だった。
王座決定戦とは、チャレンジャーがチャンピオンに挑戦するのではなく、たとえばチャンピオンが王座を返上してタイトルが空位になったときに用意される試合だ。チャンピオンがいなくなったのだから、本来ならばランキングの1位と2位の選手が王座決定戦に出場する。ところがさまざまな理由によって、そうもいかないケースがある。
だから1位と2位の試合ではないからといって、即批判の対象になるわけではない。それでも今回のバンタム級王座決定戦はあまりに唐突であり、理解に苦しむ点が多々あった。まず、WBAの10月発表のランキングでスーパーフライ級の2位だった興毅が、11月に突然バンタム級の2位にランク入りし、合わせて正規王者のアンセルモ・モレノがスーパーチャンピオン(防衛回数を重ねるなど実績を残した王者がより格上の王者になる制度)に昇格すると発表された。これによってチャンピオンが空位となり、2位である興毅の王座決定戦出場が決まったのだ。
日本のボクシングファンが絶句した3階級制覇の対戦相手。
この成り行きは、興毅が初めてタイトルを手にした4年前の試合に似ている。
あのときはフライ級からいきなり階級を下げ、ライトフライ級でのやはり王座決定戦だった。対戦相手はファン・ランダエタ。直前までランダエタはもう一つ下のミニマム級のランカーだった。それが急きょライトフライ級の上位にランクされ、興毅との決定戦に挑むことになった。ダウンを喫しながら興毅に軍配が上がった判定ばかりが物議を醸したが、あの一戦も試合そのものが世界タイトルマッチというには物足りなかったのである。
それでもなお、難敵と思われる対戦相手が用意され、試合内容に期待が持てさえすれば、試合決定までの手続きなど小さな話だったかもしれない。しかし、ベルトをかけて拳を交える選手が元WBA世界スーパーフライ級王者のアレクサンデル・ムニョス(ランク5位)に決まったというニュースは、国内のボクシングファンを絶句させた。