プレミアリーグの時間BACK NUMBER
W杯を決めたホジソンの積極采配!
イングランドに漲る久々の期待感。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2013/10/24 10:31
グループHの最終節ポーランド戦に2-0で勝利し、試合後に握手するホジソン監督(右)とスタメンに抜擢されたタウンゼント。
土壇場の2試合で、ホジソンの采配が一変した。
ところが、ホジソンは、土壇場の2試合でやればできるということを存分に示した。予選の過去8試合とは打って変わって、積極的な采配を見せた。その象徴が、モンテネグロ戦の右サイドに、ジェイムズ・ミルナーではなく、アンドロス・タウンゼントを先発起用した人選だ。ハードワークを身上とし、攻撃面よりも守備面の貢献が目立つミルナーは、言わばホジソンのお気に入り。主力ウィンガーに故障者が相次ぎ、左サイドには、本来FWのダニー・ウェルベックの起用が想定されたことから、右には、2列目の堅守要員としてミルナーを入れるのが、従来のホジソン路線と思われた。
しかし、指揮官はタウンゼントを登用する冒険心を見せた。代表デビューとなった22歳のウィンガーは、所属するトッテナムのアンドレ・ビラスボアス監督が「ボールを持ったらDFと勝負することしか頭にない」と驚嘆するほど攻撃的。プレミアリーグでさえ、初先発は今年に入ってからという経験の乏しさからしても、ホジソンらしからぬ決断だった。
そして、指揮官が「悩み抜いた末」と告白した「賭け」は、自陣内からの独走でウェイン・ルーニーの先制点に絡み、自らのミドルでチームに3点目をもたらすという、タウンゼントの活躍で報われた。ホジソンが守備固めに動いたのは、そのタウンゼントが観衆のスタンディング・オベーションの中でピッチを去り、代わりに、病み上がりでベンチに座っていたジャック・ウィルシャーが投入された80分になってからだった。
記者が心配する中、貪欲に追加点を狙う姿勢。
タウンゼントの突破力は、続くポーランド戦でも立ち上がりから盛んに発揮された。この試合ではセンターハーフの1人として、前節でのフランク・ランパードに代わって、マイケル・キャリックが先発している。
机上の理論では、ランパードよりも深い位置で守る意識の強いキャリックを起用することで、ロベルト・レバンドフスキがリードする敵のカウンターに備えたと考えられる。しかし実際には、左ボランチとしてキャリックというカバー役がいる安心感が、コンビを組んだスティーブン・ジェラードはもちろん、左SBのレイトン・ベインズにも、果敢な攻撃参加を可能にする狙いだったと見て取れた。ルーニーによる前半の先制点は、そのベインズが届けた完璧なクロスから生まれたものだ。
別人のようなホジソンの攻撃姿勢は、後半に母国メディアをも驚かせた。ハーフタイムを境に、敵がボールを支配し始めたピッチを眺める記者席には、センターFWのダニエル・スタリッジを下げてMFを入れ、中盤を厚くする選手交代を望む声が多かった。だが、指揮官はスタリッジを82分まで残して追加点を狙った。その後も、単に1点のリードを守り切るだけの戦いは指示しなかった。ジェラードが、執念剥き出しの突進からネットを揺らしたのは、終盤88分のことだった。