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ドルトムントの育成責任者が明かす、
アカデミーの急成長と“新たな香川”。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byShinya Kizaki
posted2013/10/04 10:31
自身も育成アカデミー出身で、2008年に引退するまでドルトムントひと筋だったラース・リッケン。1997年のチャンピオンズリーグで優勝し、ブンデスリーガでは1995年、1996年、2002年と3度優勝を果たしている。
お手玉をしながらパス、計算しながらシュート。
キーワードは“ライフキネティック”だ。
「クロップ監督はドルトムントに来ると、トップチームに『ライフキネティック』というトレーニング法を導入しました。お手玉をしながらパス交換をする、数字を計算しながらシュート練習をする、といった頭を使いながら行なう練習法です。アカデミーでも、選手たちがウォーミングアップのときにライフキネティックを実践しています」
日本的に言えば、“脳トレ”とサッカーを掛け合わせたようなメニューで、脳と体の連結が強化されることが期待される。どれくらい効果があるかを科学的に証明するのは難しいが、新しい手法を取り入れることによって、クラブ全体に新鮮な空気が吹き込まれることは間違いないだろう。
育成成功の2つ目の理由は、「セカンドチームの活用」だ。
すでに触れたように、ドルトムントには23歳以下が中心のセカンドチーム(ドルトムントII)がある。かつてのJリーグで言えば、サテライトチームのような位置づけだ。ただし、Jリーグと違うのは、セカンドチームが国内の3部や4部に出場することである。
現在ドルトムントIIは、ドイツ3部に所属。ブンデスリーガのセカンドチームで他にドイツ3部にいるのは、シュツットガルトIIのみ。4部で戦っているバイエルンIIやシャルケIIに比べて、より高いレベルで経験を積むことができる。
下部組織の順位よりも、個人の成長を重視。
リッケンは言う。
「ドイツ3部はドルトムントIIとシュツットガルトIIを除いて、すべて大人のプロのチーム。彼らは生活がかかっており、非常に激しく、タフなリーグです。若手にとって簡単なリーグではありませんが、もしそこでコンスタントに出場できれば大きな経験になる。育成するうえで、セカンドチームは非常に重要な場です」
今季の第2節のブラウンシュバイク戦で、19歳のFWドゥクシュが1部デビューを飾った。彼は年齢的にはドルトムントU-19でもプレーできるが、すでに2年前、ドルトムントIIに昇格。そこで大人のサッカーに慣れ、ついに今季トップチームに上がってきた。
「ひとつ注目してほしいのは、ドルトムントは下部組織のリーグ戦の順位はあまり重要視していないということです。たとえば昨季、ドルトムントU-19は、国内のU-19のリーグ戦で9位でした。もし順位を上げようと思ったら、ドゥクシュをU-19に戻すこともできた。けれど、最も大事なのは選手個人の成長。ドルトムントのアカデミーでは、力があればどんどん昇格させています」
他にもDFのギュンターが同じ道を歩んでいる。