ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
違和感があった長谷川穂積の世界戦。
フェザー級転向で生じた誤算の中身。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKYODO
posted2010/11/30 10:30
自身のブログで「おれ、お疲れさん」と綴った長谷川。「おれにはなにも返すことはできないですが、少しでも試合で喜んでもらえるようにもっと強くなります」とファンへの感謝を記した
バンタム級53.5kg。フェザー級57.1kg。バンタム級からフェザー級にクラスを上げた長谷川穂積のチャレンジは、この3.6kgという体重差に焦点が絞られていた。生まれたての赤ん坊ほどの体重が、稀代のサウスポーに何をもたらし、何を奪うのか。大差の判定勝利に終わったファン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)との試合は、複数階級を制する難しさをあらためて教えてくれた。
違和感を覚えたのは第1ラウンドだった。長谷川の意図がわからないのだ。なぜ、そのようなボクシングをするのだろうか─―。
どちらかといえば……出来が悪い感じの立ち上がり。
この日の長谷川はスタートから力強いパンチを次々と打ちこんでいった。
攻撃的と言えば攻撃的なのだが、パンチが大振りでミスブローも多く、そのパフォーマンスは端的に表現するなら雑で力任せ。減量苦からの解放により動きにキレが増したという印象もなく、どちらかといえば「出来が悪いな」という不安な立ち上がりである。何より動きの少なさが最も気になるところだった。
階級を上げたボクサーは、厳しい減量から解放され、余裕のあるコンディション作りを手に入れる。その代償が体格的なハンディだ。新たな対戦相手たちはより力強く、たいていは背も高くてリーチも長い。このような状況で勝利したいのなら、敵の長所を消し、自らの長所を生かしたボクシングをするのがセオリーだろう。つまりパワーではなくスピードとテクニックの勝負。接近戦を注意深く避けながら素早い出入りでシャープなブローをヒットさせるスタイルこそ、長谷川の選択すべき戦い方に思えた。
なぜ長谷川はパワー勝負に挑んでいったのか?
過去に複数階級制覇を成し遂げた偉大な先人たちも、多くはこのパターンを踏襲している。ところが驚いたことに、長谷川は完全なパワー勝負に打って出たのである。
「動こうと思ったら動けましたけど。向こうはこっちがちっこいと思ってる。そこでサイドサイドに動くと、どんどんプレッシャーをかけられる。逆にどつきあいじゃないけど多少打ち合って、バンタムから上げてきたけど下がらへんぞ、という気持ちが自然に出てしまったという感じです」(長谷川)