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「ここまで反発を感じるシューズはない」國學院大→旭化成のランナー2人が選んだ厚底は、なぜデサントだったのか

posted2026/01/31 11:00

 
「ここまで反発を感じるシューズはない」國學院大→旭化成のランナー2人が選んだ厚底は、なぜデサントだったのか<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

旭化成陸上部の中西大翔(左)と山本歩夢。2人は國學院大学陸上部の先輩後輩にあたる

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涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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Yuki Suenaga

「今からランニングシューズを出すの? しかも、レーシングシューズ?」

 それがデサントからの第一報を耳にした際の、偽らざる感想だった。

 NIKEが厚底レーシングシューズ「Vaporfly 4%」を2017年に世に問い、シューズ業界の勢力図を一変させてから9年。ASICSやadidasが総力を上げて猛追し、今や日本のランニングシューズ業界の通知表のようになっている正月の大学駅伝の着用者数では2025年にその両者がNIKEを逆転。またPUMA、New Balance、On、HOKA、MIZUNOなども続々と高性能なシューズを送り出しており、良く言えば「百花繚乱」状態でランナーの選択肢は増えている状態だが、厚底という“衝撃”が“常識”になった後の「調整・安定期」に入っているとも言える。メーカー側の視点に立つと急激なシェア獲得は難しい局面だ。

 その厳しいマラソンのような世界へ、水沢ダウンなどアパレルのイメージが強いデサントが、“最後尾”から走り出そうというのだ。

 デサントが日本のランナーに問おうとしているのが「DELTAPRO EXP V3」だ。読み方は「デルタプロ イーエックスピー ブイスリー」。韓国・釜山にある同社の開発拠点で生まれたレーシングシューズで、重さは約220g(27.0cm)。構造的な特徴は主に2点で、前足部が4本、後足部が2本にわかれたフォーク状のカーボンプレートと、上下2層で硬度を変えたPEBA素材のミッドソールだ。

 このシューズ、すでに結果を出している。2025年11月のJTBC ソウルマラソンで、デルタプロを履いたリトル・ニック・キトゥンドゥが2時間05分32秒という好タイムで優勝しているのだ。しかもこの20歳のケニア人ランナーは自己ベストを12分以上(!)更新したとのこと。

 スペックだけ聞くと他メーカーと比べて特段の目新しさはないように思えるが、若いランナーのポテンシャルを突然開花させたという事実は気になった。

「ここまで反発を感じるシューズはなかった」

「数えきれないほどのレーシングシューズを履いてきましたが、ここまで反発を感じるシューズはなかった。最初に履いて、本当に強い衝撃を受けました」

 1月14日のデルタプロの発表会。第一印象についてそう語ったのは、ゲストで呼ばれた旭化成・中西大翔だ。國學院大時代にはキャプテンを務め、大学駅伝でも主要区間を担ってきた。

 だが、大学時代から数々のシューズを履いてきたであろう実業団ランナーが「ここまで反発を感じるシューズはなかった」というのは本当だろうか? リップサービス過剰ではないか? 真意を聞いた。

「初めて履かせてもらったジョグ後に、ロードで200mの流しをやったんですけど、本当に『追い風か!』ってくらい体が進みました。いつもは33~34秒で走るんですけど、これを履いたら自然と30秒で走れてしまった(笑)。多少起伏のあるロードだったのに、トラック練習のような出力になったので、本当に衝撃的でした。もちろん反発だけなら他社のシューズも凄いんですけど、このデルタプロはそれに加えて安定感がある。高反発の他社のシューズは左右にブレが出てしまうこともあるんですけど、これはジョグシューズのような安定感、安心感があるので、前方向に自然と推進力がもらえたのかなと思います」

 コメントの中でのキーワードは「安定感」だろう。レーシングシューズの売り文句として、良く使われる単語が「反発」と「クッション」だ。ただ、それはどのメーカーも同じ。素材が持つその2つの武器を、シューズという構造の中にどう閉じ込め、どう味付けするかで履き心地は全く変わってくる。

 実際、市民ランナーの筆者が履いてもデルタプロには安定感があった。まだ数回しか履いていないが、中西のように“流し”をしてみると、脚が体の前で楽に回転して、さばける感覚もあった。また接地~蹴り出しにタイムラグがなく、地面の反発がきっちりシューズを通して体の推進力になっていく。個人的な意見だが、接地時のタイムラグの有無は安定感を大きく左右すると思っている。タイムラグがあると反発が体にスムーズに伝わらず「シューズに走らされている」という違和感につながり、長時間走り続けるフルマラソンではその違和感の積み重ねが致命的ダメージになってしまうのだ。

 ではなぜ、“最後尾”スタートのデサントの日本市場デビュー作に、ここまでの安定感、安心感があるのだろうか? 韓国では3作目と改良を積み重ねて来ていることもあるだろうが、もうひとりのゲストランナーがディテールを指摘してくれた。

白と紺色のシューズはもう旭化成

「ここ、ここがいいんですよ!」

 笑顔でミッドソールの形状を指差したのは、山本歩夢だ。発表会では白と紺色に近いブルーのカラーバリエーションについて「デザインがもう旭化成」とコメントして、メディアを笑わせていた。

 山本は中西と同じく國學院大学出身で、昨春、旭化成に入社。大学4年時には同期の平林清澄とともに中心選手として出雲駅伝、全日本大学駅伝でチームを優勝に導いており、2学年上の中西とは「仲がいいなんてもんじゃない、家族みたいな感じです」と笑う。

 レーシングシューズは軽量化のため、最近はミッドソールをギリギリまで削ることが多い。だがデルタプロを裏返すと、内側は途切れることのない一体構造となっており、外側も足の真ん中あたりまで台形の「突起」のようにソールがある。山本が指さしたのはその台形部分だった。

「僕はフォームがフォアフット(つま先着地)で、ほとんど踵を地面につけることなく走っています。僕の中でのシューズの究極形は、踵の部分はソールが要らないくらい(笑)。だからレーシングシューズに安定性を求めることはなくて、とにかく反発力が欲しいタイプなんですけど、この(台形)部分があることで最後までしっかり蹴り出せるんですよ」

 そしてシューズの性能を一番感じるのは「全速力で走った時」だという。

「僕は極端なフォアフットなので、このデルタプロを履いた時は中西さんと違ってジョグではややブレを感じたんですけど、全速力になると自分本来の走りができて、かなりの推進力を自然と得ることができました。接地からのタイムラグもほとんど感じません。さらにアッパーや踵のフィット感も良くて、足を優しく包んでくれるイメージです。締め付けの強いシューズは苦手なので、最初からとてもいい印象を持ちました」

 ミッドソールとカーボンが生む反発力はもちろん、それが生む推進力を支えるソールの形、そしてアッパーのフィット感。それは山本のようなトップランナーでなくても、マラソンを走る際に「欲しい」ものだろう。

ランニングシューズ界では新参者

 2人の率直なコメントを頷きながら聞いていたデサントジャパンの担当者・生野貢希氏は、トップアスリートにどう浸透させていくか、地に足のついた展望を語った。

「自分たちがランニングシューズ業界で“新参者”だということは理解しているので、まずは履いてもらう、一度足を入れてもらうことが大切だと思っています。だからこそ旭化成さんをはじめ、当社がユニフォームを提供しているチームの方々を中心に、しっかりシューズの良さを理解してもらうことが大切だと思っています」

 デサントは、旭化成だけでなく、トヨタ自動車、富士通という強豪実業団チームのユニフォームサプライヤーを務めている。シューズシェア競争では最後尾からのスタートながら「大きな武器」をすでに手にしているのだ。

 そして大学生と実業団ランナーの違いについて、山本が興味深い指摘をしてくれた。

「大学駅伝は選手個人が選ぶシューズに制約があるわけではないんですけど、チームが各メーカーと契約しているので、どうしてもそこのシューズを選ぶケースはあると思います。収入のない大学生にとっては経済的な事情もありますし。でも、実業団は個人で契約をしなければ本当に自由ですし、選手個人がしっかり自分にあったいいシューズを選んでいる人が多いと思います」

 そして筆者が「ニューイヤー駅伝のシューズに注目すると、トップランナーに本当に評価されている一足がわかるかもしれませんね」と返すと、中西も山本も「確かにそれは面白い」「本音が見えるかもしれませんね」と同意してくれた。

 今年のニューイヤー駅伝では本番直前にチームに感染症が蔓延したことなどから結果がともなわなかったが、主将の相澤晃を筆頭に、井川龍人、葛西潤ら旭化成が抱えるタレントは豊富で、山本は「めちゃめちゃレベル高いし、チーム内の競争も激しい」という。次回は優勝争いに絡んでくるはずで、中西、山本ら所属選手の足元にどんな変化が起こるのか注目したい。

インタビューの最後に驚きの発言が

 取材の最後、山本がこんな宣言をした。

「2人で週末の都道府県対抗駅伝でこのシューズ履きます!」

 おおお、とインタビューを聞いていたデサントのスタッフから歓声が上がった。中西は「直前のポイント練習できっちり走れたら」と慎重な姿勢も見せていたが、実際に2人は1月18日のレースで着用した。石川県代表の中西は、青学大・黒田朝日ら各都道府県のエースが集った3区で区間17位の堅実な走り。福岡県代表として最終7区を走った山本は、区間6位で見事8人抜きの快走を見せた。山本は「大牟田高校のメンバーがいなくなったから福岡は弱くなった、と言わせたくない」と話をしていたが、有言実行の走りだった。

 DELTAPRO EXP V3の日本長距離界のデビュー戦は上々と言っていいだろう。

 2人はデサントへの要望も忘れなかった。

「新しいシューズを探す時は、ジョグシューズから試すという選手も多いですし、僕自身もそうなのでラインナップを増やしてもらえたら嬉しいです。フォアフット専用厚底シューズですか? それがあったら食いつきますよ(笑)」(山本)

「まだ履き始めたばかりなので、これからちょっとずつフィードバックをさせてもらって、一緒にいいシューズを作って行けたら嬉しいです」(中西)

 開発拠点が韓国であるため、これまでは日本のトップ選手からのフィードバックをもらう機会は少なかったというデサントのランニングシューズ。「DELTAPRO EXP V3」で日本においても順調な一歩を踏み出したが、今後、同社のシューズはさらに進化していきそうだ。

2人が選んだデサントのレーシングシューズ DELTAPRO EXP V3

前足部に向かって4本に分岐するフォーク型のオリジナルカーボンプレートが最大の特徴で、どの位置で着地しても反発力と推進力を受け取りやすい造りになっています。軽量でありながら高いクッション性と反発性を備えたPEBA素材をプレート上下に2層で配置し、着地から蹴り出しまでの動きをスムーズに導くミッドソールを設けている。29,700円(税込)

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