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《ミラノ・コルティナ2026冬季大会の援軍》“栄養”でTEAM JAPANをサポート。味の素(株)「ビクトリープロジェクト®」の科学と情熱の最前線
posted2026/02/05 11:00
「ビクトリープロジェクト®」の主要メンバーとしてアスリートを支える、味の素株式会社の蘆名真平(左)と上野祐輝
text by

雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Asami Enomoto
金曜日の夜、ジョインビレの空に輝く星が見えた。
そのこと自体が珍しかったわけではない。ただ、蘆名真平が不思議な感覚になったのは家の中にいるのに星空が見えたからだった。
ポルトガル語を身につけるために大学を1年休学した蘆名は、ブラジル南部サンタカタリナ州の町ジョインビレにやってきた。味の素社のトップアスリートサポートプログラム『ビクトリープロジェクト®』でパラリンピックを担当するようになる20年前のことだ。
「大学の教授がすごく幸せそうな人で、サンタカタリナ州の大学に通っていたと言っていたんです。そこに行けば彼のような人間になれるのかなと思って、行き先を決めました」
現地では日本の精米機メーカーで住み込みで働いた。しかし、すんなりとハッピーな人間になれたわけではなかった。ほとんど日本人のいない町で、ひとりでアパートにいて、食事もひとり。言葉も話せるようにならない。孤独でさみしい。理想とのギャップに戸惑い、こんなはずじゃないと思っていた。
とある金曜日、仕事を終えて、とぼとぼと歩いて帰っていると、会社の財務担当の女性が通りかかった。迎えに来た夫とバイクに乗りながら、「一緒に来なよ」と声をかけてくれた。蘆名は喜んで自宅に招かれたものの、着いてみて驚いた。その家はお世辞にも立派とは言えないような、端的に言ってしまえばおんぼろな家だった。
「木造の住宅なんですけど、そんなしっかりしたものじゃないんです。壁の木板の間から外が見えるぐらいなので、雨が降れば当然雨水が降り込んできてしまうような状態で……」
最初こそ面食らった蘆名だったが、彼らと交流を重ねるうちに求めるものがこの家の中にあったことに気づく。
「そこで喜びというか、お金以外の価値をたくさん学んで価値観が大きく変わったんです。彼らが劣っている、とは思わなかったですね。彼らの方が楽しそうでしたから。全然お金がないのに僕の誕生日にもすごいプレゼントで驚かせてくれた。たぶんあの町での経験が僕の原点になっていると思います」
中学、高校とオーストラリアで過ごし、人種や宗教の多様性を是として育ってきた蘆名には、そんなブラジル社会の水が合った。
ブラジルで見出した「果たすべき役目」
卒業後に味の素社に入社すると、7年目にはブラジル法人に出向する。「おじいちゃん、おばあちゃんと少年たちが、にわとりと豚と犬と猫と檻もなくみんなで暮らしている」アマゾンの奥地の集落に即席麺を売りに行き、ファベーラと呼ばれるスラム街で柔道着を配って栄養指導をした。一筋縄ではいかない仕事ばかりだったが楽しかった。
蘆名には赴任した頃に日本で生まれた娘がいて、遺伝子の病気で障がいを持って生まれてきた彼女は、ブラジルで何度も手術を受けながら年齢を重ねてきた。
「障がいを持つ人間も社会に出たときに必ずみんなと同じように生活するんだから、子どもの頃から分け隔てなく学校に行かせるというのがブラジルでは当たり前でした。肌の色や宗教の違い、そして障がいに対しても個性の受け取り方が日本とは違ったんです」
そうした環境で自らが果たすべき役目についても考えるようになる。
「この会社で自分だったら何ができるだろう。社会のために役に立つ、自分にしかできないことがきっとあるはずだ」
2016年、リオデジャネイロで行われたオリンピックとパラリンピックでは、TEAM JAPANに対して米や納豆などを現地で手配する役割を担った。現在につながるパラスポーツ、そして『ビクトリープロジェクト®』との関わりが始まっていった。
ブラジルから日本に戻り、2023年から『ビクトリープロジェクト®』のパラリンピック担当になった。今回の日本代表の中では、旗手を務めるスノーボードの小須田潤太を担当し、これまで小須田が手つかずにしていた栄養面のアドバイスを行っている。
パラスポーツでもトップ選手の超人的パフォーマンスや競技への意識の高さは驚くべきものがあるが、蘆名が感じたのはそれだけではなかった。
「なんだかブラジルの人たちと価値観が似ているんです。お金じゃないところに生きがいを持っているところに共感できる。居心地のいい世界だなと感じます。パラアスリートから学ぶものってたくさんあって、それは社会の役に立つようなことに繋がるんじゃないかと思います」
今回のパラリンピックでは、味の素社の商品を提供するサポート拠点「いつでも、ふぅ。広場」を展開し、冷凍弁当「あえて、®」も持ち込む。冷凍食品を24時間以上かけて輸送するのはプロジェクトとして初めての挑戦になるが、それもまた将来的な一般消費者の利便性に繋がる挑戦になるかもしれない。
「パラアスリートのすごさを知ると、自分が海外旅行やバックパッカーだった際にすごいものに出会った時のような感動があります。より多くの人にその感動を味わってもらいたいからこそ、彼らには輝いてほしい」
その輝きは蘆名がジョインビレで見た星空の輝きと同じものかもしれない。
サポートを通して知ったアスリートの真の姿
蘆名がプロジェクトに関わり始めたリオ2016オリンピックでは、上野祐輝も『ビクトリープロジェクト®』の新メンバーとしてブラジルを訪れていた。
同プロジェクトは味の素社の代名詞ともいえるアミノ酸の知見を生かし、3度の食事と補食を通じたコンディショニングサポートで選手たちの自己実現を後押ししようというもの。2003年に始まり、オリンピックやパラリンピックを通じてTEAM JAPANへのサポートを行っている。
味の素社に入社して営業職として過ごした8年間、上野はもどかしい思いを抱えていた。「味の素の強みはアミノ酸です。これは唯一無二なんです」と利点を訴えてセールスする。その売り文句には間違いがなくても、それと人々の暮らしとの結びつきが実際には見えていなかったからだ。
どこか確信を持てずに過ごしていたとき、社内でプロジェクトメンバーの公募があり、手を挙げた。
「商品の基本的な知識はあっても、いざ人に対して、どのタイミングで、どうやって活用するのか。課題を抱えている人たちと直接会わないと、その部分は実践的な知識として入っていかないと思ったんです」
配属されて数週間後、さっそくリオに派遣された上野は、選手村の食事を補完するために「和軽食」を提供する栄養サポート拠点「JOC G-Road Station」を担当した。4年に一度の祭典。初めての現場で見たトップアスリートたちの姿は、上野の先入観を覆すものだった。
特別なものを食べ、特別なトレーニングをしている、特別な人たち。そういう存在だと思い込んでいたトップアスリートは、実際にはそうではなかった。用意された白ごはんと具だくさんの汁物をおいしそうに食べ、元気が出たと言って試合に行って帰ってくる。競技の部分を除けば何も特別なことはなかった。
「『あ、普通の人間なんだ』とそこで強く感じたんです。勉強が得意な人がいるのと同じように、その競技に関してずば抜けて得意ではあるのですが、それだけの違いなんだと気づきました」
その後は選手の個別サポートも担うようになっていった。オリンピアンといえど、決して完全無欠のスーパーマンではない。そうした理解のもとで担当者がパイプ役となり、個々のニーズをすくい上げる。それに対して、研究者、管理栄養士らと解決策を練るのだ。
メダルが証明する栄養サポートの効果
ノルディック複合の渡部暁斗は上野が2017年に初めて担当した選手で、現在もサポートを続けている。栄養指導に始まり、練習や試合中の効果的な補食の摂り方など、二人三脚でルーティンを作り上げてきた9年間。渡部がオリンピックでメダルを獲得したときには、こう言われたことがある。
「計画的に食事や補食を取るようになってパフォーマンスが劇的に上がった、それを実感した、ということではないんです。だけど、しっかり取り組むことでコンディションのブレが少なくなりました。いつも安定した状態で臨めるようになったし、以前に比べてダメージが少ない。ふと振り返ったときにそう思うんですよ」
渡部らしい地に足の着いた感謝の言葉だった。こうした選手との直接的なやり取りを繰り返すことで上野の胸の内にあったもどかしさは解消されていった。
「営業時代はいくらたくさんのスープを売っても、消費者の手前にいるバイヤーさんとのやり取りだけでは、世の中にどう貢献できているのかを感じにくかった。でも、本当はその先に、いま目の前にいるアスリートたちと同じように美味しいと喜んでくれる人たちがいて、何かの原動力になっていたんですよね。僕が見えていなかったところに、こういうのがあったんだなと気づきました」
渡部は6度目の出場となる今回のミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックを最後と明言している。集大成の舞台に向けて、渡部の要望を受けて補食を「飲むタイプ」から「だし湯+おにぎり」に切り替えるなど、上野の伴走はゴールテープを切るその瞬間まで続いていく。
選手たちの課題はそれぞれ異なり、フィギュアスケートの坂本花織やスピードスケートの新濱立也らに対しても、味の素社の各担当がオリンピックに向けてサポートを行っている。シーズン中に体調を崩しがちだった坂本には、心理的負担にならない程度に取り組める食生活の改善を。新濱であれば長期遠征時に特別メニューを提供するなど、その対応策は千差万別だ。
そしてオリンピックではTEAM JAPANへのサポートも充実したものになる。今回は広域開催になるため、約6トン分もの物資を用意し、「JOC G-Road Station」を支える。そこでは味の素社の冷凍ギョーザを生かした特別メニュー「Power Gyoza DON」も用意し、選手たちの胃袋とこころを支える。
上野も山間部に滞在し、渡部らのサポートに回る。
「アスリートの活躍を通じて、世の中が元気になり、さまざまな気づきを得る。味の素社の強みを生かして、日本をよりよい未来へと繋げていく活動だと思っています。誇りを持って取り組んでいます」
食を通じて選手たちの活躍を後押しする。成績を追い求めるだけではない。人々の生活を豊かにし、社会に新しい価値を生み出すために、プロジェクトは動き続けている。
「JOC G-Road Station」「いつでも、ふぅ。広場」とは?
「JOC G-Road Station」はリオ2016オリンピックから6大会連続でJOCが開設する現地の栄養サポート拠点。味の素(株)はすべての大会で協力し、選手村の食事を補完すべく、「和軽食」を提供するなどのサポートを行ってきた。ミラノ・コルティナ冬季2026オリンピックでは、スペシャルメニューとして「Power Gyoza DON」を開発。おいしく栄養を摂取できるメニューを提供することで選手をサポートする。
一方の「いつでも、ふぅ。広場」は、ミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会でJPCと連携して展開されるサポート拠点。選手村近隣のパラリンピアンが通いやすい立地で、おいしさと栄養を両立した冷凍弁当「あえて、®」や「おべんとPON®!」シリーズを提供予定。加えて「SIIDA®」を使用するだし湯とコーヒーも毎日提供し、選手たちが気軽に立ち寄って新たな活力をチャージできる空間として活用してもらう。
◆味の素株式会社「ビクトリープロジェクト®」の詳細はこちらからご覧ください









