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己のスタイルを貫き通した錦織圭。
アンディ・マリーとの激戦の内幕。 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byGetty Images

posted2012/01/26 11:45

己のスタイルを貫き通した錦織圭。アンディ・マリーとの激戦の内幕。<Number Web> photograph by Getty Images

試合中、何度かラケットを放り、靴ひもを結び直し、空を見上げ、気持ちの切り替えを図っていた錦織圭。あと少し……が積み重なってストレート負けにつながった

 全豪オープンの日本男子では1932年の佐藤次郎以来80年ぶりとなる4強入りをねらった錦織圭だったが、第4シードのアンディ・マリー(英国)に夢を砕かれた。

 四大大会で初めてシード(第24シード)がついた今大会。1回戦こそストレート勝ちだったが、2、3回戦はともに3時間を超える苦闘だった。2回戦では地元豪州の中堅マシュー・エブデンを相手に、2セットダウンの窮地からなんとか生還した。3回戦は試合巧者のジュリアン・ベネトー(フランス)との3時間半の神経戦を制した。

 四大大会では2008年全米以来の4回戦進出を果たした錦織の前に立ちふさがったのは、第6シードのジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)。'08年全豪準優勝の強豪だ。このビッグサーバーに錦織は鉄壁のリターンで対抗し、ベースラインの打ち合いでも相手のパワーを制した。

 自身初、日本男子としては1995年ウィンブルドンでの松岡修造以来の四大大会8強入りだった。全豪での日本男子の8強は、1932年に佐藤次郎が4強、布井良助が8強入りして以来80年ぶり、1968年オープン化(プロ解禁)以降では初めてだった。それでも錦織は「今は実感はない。次の試合に集中したい。まだまだ終わりではない」とアンディ・マリー(英国)との準々決勝を見据えた。

「BIG4」の一角を相手に、自分のスタイルで戦い抜いた錦織。

 今、男子テニス界でジョコビッチ、ナダル、フェデラー、マリーの「BIG4」は別格と見られている。

 四大大会のベスト4は、ほぼこの4人の指定席となり、ランキング5位以下の選手との間には明らかなギャップが認められる。その一角を崩そうと、錦織は全豪のロッド・レーバー・アリーナのコートに立った。

 マリーは、錦織にとって理想のプレースタイルを持った選手だ。「ああいう頭のいいプレーが自分の目指すところ。彼のテニスから学ぶことは多い」と言っていた錦織。その“理想型”と、ネットを挟んで対峙したのだ。

 本来は十分に対策を練って試合に臨む錦織だが、今回ばかりは具体的な作戦はなかった。昨年、上海の大会で対戦したときは3-6、0-6と完敗している。しかし、自分のテニスを崩して極端な戦い方を選ぶのではなく、「いつもの自分のテニスを変えずに、できることをやろう」と覚悟を決めた。

 4回戦までの試合時間の合計は11時間48分に達する。前日、「疲れは意外にない。体が強くなっている証拠だろう」と話した錦織だったが、連戦で体力がすり減っているのは明らかだ。この試合のもう一つのテーマは「残っている限りの力を出して、走る」ことだった。

【次ページ】 錦織は時折、空を見上げ、途方に暮れたような表情を。

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