スポーツの正しい見方BACK NUMBER
ファンは神様でなかったのか?
text by
海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa
photograph byHideki Sugiyama
posted2004/10/21 00:00
前回、ぼくはこのコラムで、プロ野球選手会がストライキをもって経営者側に反対する姿勢を示したのは、いつまでも自分の意志を持たない野球ロボットのままではいないと宣言したことだと書いたが、それをつらぬいてストライキを打ち、本当にロボットではないことを証明した。
これまで、どんなことでも自分たちのいいなりになると思っていた経営者側が、その反乱に大いにおどろいたであろうことは想像に難くない。これで今後は、経営者側は選手を"たかが選手"あつかいすることはできなくなるなるだろうし、どんな問題も選手会を抜きにしては決められなくなるだろう。つまり、経営者側がこれまでのように球団を私物化することはできなくなったともいえるわけで、選手会の反乱はたぶん2リーグ制を維持しただけではない結果を日本の野球界にもたらしたのである。じつにすばらしいことだった。 しかし、その一方で、はやくも忘れ去られようとしているものもある。ファンである。
10月10日は、パ・リーグのプレーオフ第2ステージの3回戦がおこなわれた日だが、セ・リーグでもカープとジャイアンツの試合があった。場所は広島球場で、ドラゴンズの優勝が決まったあとの何の意味もない消化試合だったにもかかわらず、1万人のファンが集まった。ところが、その試合にカープでは嶋、ジャイアンツではローズが出場しなかったのである。
嶋はその時点で3試合を残していたが、3割3分7厘でセ・リーグの打率トップだった。いうまでもなく、その打率トップの座を守るために休んだのである。
一方のローズは本塁打王争いで45本を打ち、ベイスターズのウッズと並んでトップだった。だから、出場すれば単独トップに立てる可能性があるのになぜ休んだのか分らないが、ともかくライバルのウッズとそろって2日前の8日にアメリカに帰ってしまったのだそうだ。きっと、もうどうでもいいと思ったのだろう。 しかし、彼らはそれでいいとして、何の意味もない消化試合を見にきた1万人のファンには、リーグでもっとも高い打率を誇る選手と、もっとも多くのホームランを打っている選手のバッティングを見せないで、何を見ろというのだろう。
シーズンの最後になると毎年のようにくり返される光景がまたくり返されたといえばそれまでのことだが、選手たちが球団合併の反対とストライキの支持を訴え、ファンにお願いしますと頭を下げたのはほんの1カ月か2カ月前のことなのである。そして、それにこたえて圧倒的多数のファンが選手会を支持する声をあげたとき、会長の古田はそれに感激してテレビの前で涙まで流したのではなかったのか。ところが、彼らはそのファンに対して、すくなくとも広島のゲームでは、いいプレーを見せることではなく、見せないことで返礼したのである。
野球ロボットでなくなったのはいいが、いったいこれからさき、彼らはどのように変わっていくのだろう。1カ月前には、これで彼らもファンの存在の大切さを骨身にしみて知っただろうと思ったこともあったが、こんなことをしていたのではさきゆきは暗い。