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ベルギー代表が弱い理由。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2004/11/04 00:00

ベルギー代表が弱い理由。<Number Web> photograph by AFLO

 ベルギー代表のアントゥニス監督は、陰でこんな悪口をささやかれている。

 「やっぱりワロン人に、代表監督は向いてないんじゃないか?」

 ベルギーは、オランダ語を話す北部(フラマン人)と、フランス語を話す南部(ワロン人)の2地域に分かれている。でも、ことサッカーになると、体の大きいフラマン人の選手が多いし、プレスの数もフラマンの方が優勢。どうしてもワロン人には、風当たりが強くなってしまう。

 さらに2006年W杯の予選で、ベルギーは1分1敗で5位と絶不調だ。FIFAランキングは、現監督になってから19位から35位に急降下。ベルギーの新聞は「自由落下」と皮肉たっぷりに見出しをつけた。ワロン人のアントゥニス監督は、次のセルビア・モンテネグロ戦(11月17日)に負けたら解任、というところまで追い詰められている。

 でも、悪いのは監督だけではないだろう。チームの方も、どこかバラバラだ。

 “国外組”のFWソンク(アヤックス)、MFブッフェル(フェイエノールト)、FWピエローニ(オセール)、ビスコンティ(ニース)は、所属チームでベンチウォーマー。代表に戻ってきても力を出せず、アントゥニス監督は「主力がこんな調子では勝てない」とグチるしかない。

 W杯予選のスペイン戦では、MFホールが相手選手にツバを吐きかけ、DFデフランドルは審判に「ファック・オフ!」と怒鳴り退場になってしまった。ちなみに、その前日に行われたU21の試合でも、ベルギーのGKプロトが「ファッキング・バスタード!」と叫んで退場になっている。ベルギーは、2日間でレッドカードを3枚もらったことになり、ベルギー・サッカー協会のペータス会長は「ベルギーのイメージが汚された」と激怒した。

 思えば2002年W杯のとき、ベルギーは主将ビルモッツを中心に、完全にひとつのチームにまとまっていた。開催国の日本や、王者ブラジルを相手に、恐るべき団結力で立ち向かったのだった(まあ、監督のワセイジュは、フラマン人ではあったが)。あのベルギーは、いったいどこにいってしまったのだろうか?

 ベルギー代表の伝説のGKプファッフ(1986年W杯ベスト4、1980年ユーロ準優勝)は、こう説明する。

 「多くの選手がベルギー代表でプレイすることなど、どうでもよくなってしまったんだ。頭には所属クラブのことしかない」

 たとえば、ハンブルガーSVのエミール・ムペンザがいい例だろう。「ベルギー代表でやる気がしない」と、代表を拒否し続けているのだ。“ベルギー代表”というステータスは、今やネット企業の株価のように下がりきっている。

 EU統合が進むにつれて、トルコやギリシアのようなヨーロッパの辺境にある国は、“田舎者”というコンプレックスをバネに代表で戦うことに意義を見出せた。でも、ベルギーはそれに比べて、どこか中途半端な国だ。EUが統合されてベルギー人は、気分次第でフランス人のようにも、オランダ人のようにもなれるようになった。そんな“どっちつかず”のところが、国としての魅力を半減させてしまっているのだろう。(おそらく、この傾向はスイスも同じだ。スイスでは、せっかく育てた有望な若手が、フランスやイタリアの代表を選ぶようになっている。FIFAの「U21までは国籍を変えることができる」というルール変更が影響している)

 ベルギーの現状を一言で表すなら、「規制緩和で大型スーパーができて、潰れかけている小売店」といったところだろうか。小さな町の商店街で生まれ育ったひとりとして、ベルギー代表にはグローバル化の波になど負けて欲しくない……全てが太いものに巻かれてしまう世の中になっては、あまりにも寂しい。

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