オリンピックへの道BACK NUMBER
世界陸上の経験をロンドンへ。
ベルリンで踏み出した「小さな一歩」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKYODO
posted2009/09/01 11:30
尾崎好美の監督・山下佐知子氏の記録が1991年の世界陸上選手権での銀メダル、'92年のバルセロナ五輪では4位だった
8月23日、ドイツ・ベルリンで行なわれていた陸上世界選手権が閉幕した。
ウサイン・ボルトの想像をはるかに超える走りをはじめ、世界トップクラスの選手たちのパフォーマンスには観るべきところが多かった今大会。では、大会を通して振り返ってみると、日本勢はどうだったか。
世界のトップ選手との差を実感できたことが重要だ。
大会前、日本陸上競技連盟の高野進強化委員長が掲げていた目標は、「メダル1、入賞6」。結果は、女子マラソン尾崎好美の銀メダルとやり投げの村上幸史の銅メダルでメダルは2個。入賞は5個を数えた。目標は無事クリアすることができた。
その点でも一定の評価がされるべきだが、今後へ向けて、もう一つ、意味のある大会であったといえる。今大会の日本選手団は、全59名中、世界選手権初出場は29名と若い選手の多い構成だった。彼らがこのような国際舞台を体感できたということだ。
大観衆のつめかけた会場の雰囲気、能力の限界まで出し尽くさなければ勝負にならない場の雰囲気を肌身に感じたことも大切な経験であるが、それとともに、世界の中の位置を知ることができた点が大きい。
選手は記録の上で、世界のトップに位置する選手と自分との差は把握している。だが、記録では分かっていても、その差を実感できていないことがある。トップ・アスリートが大会でどのようにふるまい、どう調整しているのか。それは自分とどう違うのか。こうしたディティールを知ることで、差を実感できるものだ。
己の力量を把握することから勝負は始まる。
以前にも記したが、高橋萌木子が'07年の世界選手権に初めて出場したあとの言葉、「アップしているときから外国の選手の体の大きさ、そして自分の体ができていないことを実感しました」。
それも出場したからこその発見である。
あるいは昨年、北京五輪5000mに出場した小林祐梨子。五輪、世界選手権を通じ初出場だった小林は、惜しくも予選落ちはしたが、「手ごたえを感じられた」とレース後に口にしている。
初めての大舞台で、予想していたほどの差を感じなかったことが、「やれる」という思いとなり、今大会での決勝進出にもつながったのだ。つまり、力量の把握こそが、勝負するための第一歩なのである。