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日本陸上界の低空飛行。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2008/06/24 00:00

 多くの競技で北京五輪代表が固まった。まだ代表の決まっていない主要競技といえば陸上である。

 その代表選考大会となるのが日本選手権だ。6月26日から4日間、神奈川県・等々力陸上競技場で行なわれる。

 だが代表選考へ向けて、さらに北京本番を見据えて調子が上がってきておかしくないはずなのに、今季開幕以後、記録が伸びないまま今日まで時間が過ぎてしまった。

 低調ぶりは、代表選考基準に記された派遣標準記録を目安にすれば浮き彫りになる。

 選考基準はこのように定められている。

 2007年1月以降の大会で参加標準記録Aを突破した選手が日本選手権で優勝すれば自動的に内定。または参加標準記録Aを突破し日本選手権で上位に入賞、あるいはBを突破した上で日本選手権で優勝ないしは上位入賞した選手の中から本大会で活躍する可能性を予測し選抜。

 6月19日現在で標準記録を突破している選手を数えると(競歩を除く)、男子はAが20名、Bは29名。女子はAが12名。B26名と、一見多いように思える。ところが今季にかぎると男子のAは3名、Bが7名。女子はAが5名、Bも10名にすぎないのだ。

 代表の主軸となってほしい選手たちの動向が象徴的だ。2001年、2005年の世界選手権400mハードルの銅メダリスト為末大は故障が相次ぎ、出場を予定していた大会をキャンセル。ようやく初戦となったのは6月14日の福大競技会。結果は自身のもつ日本記録より3秒以上遅い51秒28にとどまった。為末自身、「ピンチです。危機的状況ですね」と不安をのぞかせた。

 2003年世界選手権200m銅メダルの末続慎吾もまた、5月10日の大阪国際GPは100mに出場したが平凡なタイムに終わり、5月下旬に北京で行なわれたプレ五輪大会200mも決勝を棄権した。

 もっとも大きな原因は調整不足にあるといえるだろう。今季の開幕前、天候に恵まれず思うようなトレーニングを積めなかった選手は少なくない。

 とはいえ、いつまでも低空飛行を続けているわけにはいかない。まして北京五輪は、日本陸上界にとって、昨年の汚名を晴らす機会である。

 昨年8月、大阪で行なわれた世界選手権は「惨敗」と言われる結果に終わった。地元開催による期待が重圧となり、コンディショニングでも失敗。上位進出が注目された選手たちは連鎖反応を起こしたかのように自己記録を大きく下回る結果で敗退していったのだ。

 その雪辱を果たす場が北京なのである。それだけに、伸び悩んでいる現在の状況は、歯がゆさを感じる。

 実は、代表選考規定にも現状が映し出されている。

 参加標準記録Aを突破した選手が日本選手権で優勝すれば「自動的に内定」と決まったのは今月のことである。

 陸上の五輪代表枠は全体で36名。種目の多い陸上は、どの種目でもAの突破選手が優勝すれば枠をオーバーしてしまう。つまりはオーバーする見込みがなくなったために、自動内定と改めたのだ。

 こうした低調なムードに、危機感は選手たちも強い。今月上旬には、為末、末続、走り幅跳びの池田久美子ら中心選手たちが異例の合同合宿を実施した。合宿中には話し合って結束を固めたという。

 代表争いとともに、選手たちがどこまで巻き返しを図れるか、記録を向上させるきっかけとなるか。日本選手権は北京へ向けての試金石となる。陸連が選考に困るほどの好成績を期待したい。

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