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「野球マンガ」を読んで
メンタル強化法を学ぼう。
~『砂の栄冠』から『グラゼニ』まで~ 

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南信長

南信長Nobunaga Minami

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posted2011/07/02 07:59

「野球マンガ」を読んでメンタル強化法を学ぼう。~『砂の栄冠』から『グラゼニ』まで~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『砂の栄冠』 三田紀房著 1~4巻、以下続刊 講談社

 今年も沖縄大会を皮切りに、夏の甲子園をめざす球児たちの熱い戦いが幕を開けた。負けたら終わりのトーナメント戦は、プレッシャーもハンパじゃない。精神的な動揺から、本来の力を出し切れず敗退してしまうチームも多いだろう。

 マンガの中でもそれは同じ。『砂の栄冠』(三田紀房)は、とある県立高校が創立百周年での甲子園初出場を目前にした決勝戦のシーンから始まる。8回裏、2点リードしながらも1死二、三塁のピンチ。学校やOBの期待を背負って全試合を投げ抜いてきた3年生エースは、浮き足立つナインの焦りにつられて投げ急ぎ、前進守備の一二塁間を抜かれるタイムリーを打たれてしまう。その一球で心のダムが決壊してしまった彼(比喩ではなく本当にそんな絵が描いてある!)は、立ち直れぬまま大量5失点、チームは掴みかけた栄冠を逃してしまうのだ。

 しかし、物語はここからが本番。新チームの主将兼エースとなった主人公が、数十年来の同校野球部ファンという老人から「野球部のために使って欲しい」と1000万円の札束を託される。それをどう使い、どうやって甲子園に行くかが同作のキモだ。主人公の高校生らしからぬ戦略家ぶりが最大の見所となるが、感心するのは彼のメンタルの強さである。

高校球児たちの心の揺れを描いた人気作『おおきく振りかぶって』

 本気で再び甲子園をめざすと決意した彼は、無能な監督を見限って、“完璧なキャプテン”としてチームを牽引する。野手のエラーには笑顔で応え、絶体絶命のピンチにも動じない。判定に不満げな態度を見せる強豪校のエースとは反対に、“思いっきりカワイイ高校球児”を演じて審判をも味方につける。そのクレバーさと不動心は、まさに超高校生級だ。

 しかし、普通の高校生は、そこまで精神的に強くない。人気作『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ)に登場する球児たちは、弱気で卑屈な投手・三橋を筆頭に、皆メンタルに左右されまくりだ。そんな心の揺れを繊細に描いたことが野球マンガとして画期的だったわけだが、同作はさらに一歩進んでメンタルトレーニングについても詳細に描いている。

【次ページ】 年俸にこだわるプロ野球選手が主人公の『グラゼニ』。

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