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玉砕を命じた反町ジャパン 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byJMPA

posted2008/08/19 00:00

玉砕を命じた反町ジャパン<Number Web> photograph by JMPA

 サッカーのオリンピック代表は、アテネのときも1次リーグで敗退して帰ってきたが、こんどの北京はもっとひどかった。

 アメリカ、ナイジェリア、オランダに全敗。アテネでは、2連敗で1次リーグ敗退が決まったあと、なんとかガーナに勝ったが、こんどはまったくなすすべもなかった。

 その原因を、反町監督はナイジェリアに負けた翌日につぎのように語った。

 「きのうのようなゲームを、ナイジェリアやアメリカ、そしてオランダの選手は毎週やっている。日本の選手はほとんどが自国でやっている。その経験値が差になる」

 まるで選手が未熟だから負けたというような言い様だが、そうだろうか。

 それでは、オランダとイタリアのチームに所属して外国でのゲームをずいぶん経験しているはずの本田圭佑や森本貴幸は、どうしてそのほかの日本人選手以上の動きができなかったのだろう。彼らが、たとえば内田篤人以上の動きをしたとはとても思えない。

 あるいは、女子の代表のことを考えてみてもよい。彼女たちは負ければ1次リーグ敗退という状況で第3戦に臨み、世界4位、シドニーでは金メダルを取ったノルウェーに5対1で圧勝したが、彼女たちの中に、外国でプレーした経験のある選手が澤穂希以外に何人いたというのだろう。

 反町監督が目指したのは、さきのA代表のオシム監督のスローガンをそのまま踏襲した「ボールも人も動くサッカー」だった。しかし、そのサッカーは実現できなかった。

 「決して悪い内容ではなかった。しかし、ペナルティエリア内に侵入しているアタッカーの人数が少なく、ゴールの予感がしなかった」(ラモス瑠偉)

 「身体能力の高い相手の守備陣からゴールを奪うには、少なくとも3人、できれば4人がペナルティエリア内に飛び込みたかったが、実際に飛び込むのは李(柏)と谷口(川崎)ぐらい。中盤の選手が入っていくことが必要だった」(相馬直樹)

 これらはナイジェリア戦の戦評だが、専門家の見方は一致している。アメリカ戦でもナイジェリア戦でも、右サイドの内田から何本かいいクロスがはいったが、いずれのときもそこに人が動いていなかったのである。

 反対に、アメリカとナイジェリアはここぞという決定的なときに、そこに人が侵入してきていた。日本に必要だったのは、外国での経験値などではなく、決定機を見きわめる想像力だったのではあるまいか。

 しかも、そういう頼りない彼らに、ナイジェリア戦を前にして、反町監督は何といったか。

 「座して死ぬくらいなら、飛び込んで死のう」

 といったというのである。

 ぼくはおどろくと同時に非常に不愉快になった。追い込まれると、作戦を放棄し、いたずらに玉砕命令を出すのは昔の日本陸軍の指揮官の専売特許だと思っていたのだが、さきの戦争から60年以上たったいまも同じことをいう人物がいたのである。論理的な作戦がもっとも必要なときに、こんな言葉しか持っていない人物が指揮官なのでは、勝てる試合も勝てまい。

 また、選手は外国で経験を積む必要があるという冒頭の言葉も論理的ではない。なぜなら、こんどのオリンピックのような試合をしていたのでは、どこの国のチームからも誘いの声がかからないだろうからだ。いったい、どうやって外国のチームに行けというのだろう。

反町康治
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