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高木豊 「“蛙の子は蛙”ではない」 ~プロ野球選手の息子3人がサッカー選手になったわけ~
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/06/29 06:00
「逃げ道」とはサボることではなく、進んでいくこと。
子供は親の所有物ではなく、人格を持った一人の人間である。だが、幼なければ幼いほど、精神的に親の支配下に置かれやすい。
「選択肢を親が決める人生ほどつまらない人生はない。だから決定権はすべて子供たちに与えた。自分で責任と決定を下す意思を持てるようにしないといけない。親が決めると、子供の芽を摘んでいくことになると思う」
3兄弟全員がサッカーを選んだ。彼らが口にした目標は「プロになること」。この意思表示に対し、豊は三者三様のアプローチをしていく。
高木家はよく家族会議をする。全員で行なうこともあれば、個別の時もある。子供たちが何を考え、何を目標にしているか。そしてどうしようとしているのかを把握するためだ。
「俺が子供たちをプロにしたかったわけではないし、決して強制はしなかった。ただ、夢はずっと聞いてきた。今何になりたいのか、そのためには何をすべきかを、常に投げかけていきました。疑問をぶつけると、子供は言い訳をするんです。例えば『自分だけマークがついている』と言えば『それくらいかわせなかったら、プロではとても無理だ』って返す。言い訳には必ず腰を折って来た。ただ、逃げ道は作るよ。人間って高い目標を持っていると、要求を出してもそれに応えようとする。そこが逃げ道なんです。結局、逃げ道はサボることではなく、進んでいくこと」
「プロ目線でプレーしている僕の心境を察してくれる」(長男・俊幸)
『否定』と『折る』、『逃げ道』と『甘やかし』は全く意味合いが違う。否定と甘やかしは安易で発展性がない。しかし、折ると逃げ道は考える余地を与える細かい作業なだけに難しいし、それ以上に発展性がある。
「常に話し合いの中で、解決をしていった。怒っても仕方がないんです。『なぜダメだったのか?』。その問いかけの答えに対して、話をしていく。この繰り返しですよ」
子供たちと真っ向から向き合うことに手を抜かないのが、高木家のモットー。こうした積み重ねにより、3人はサッカー選手として、人として自覚を持つようになり、自ら豊に話を持ちかけてくることも多くなった。
ある日、俊幸が突然、豊の部屋に来た。
「最近、ゴールが取れない。なんでだろう?」
この問いかけに対し、豊は「プロというのは、体が張れるか張れないか。例えばお前がシュートを打つ瞬間に、相手は体投げ出してくるだろ。そこでまともに打ったら入らない。キックフェイントとか入れて工夫するんだ」と返した。すると、その次の試合で俊幸はゴールをたたき出した。
「サッカーと野球は違っても、プロ目線でプレーしている僕の心境を察してくれる。父から冷静に告げられたことで、気持ちがリセットできた」(俊幸)