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サプライズの先にあるもの 〜 ユタ・ジャズ 

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小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byNBAE/gettyimages/AFLO

posted2006/12/28 00:00

 ユタ・ジャズの快進撃は関係者を驚かせた──。そう言い切ってしまうと、うそになるだろう。

 19勝7敗は、12月22日の時点でリーグ3位の好成績。昨季・一昨季とプレーオフを逃したことを考えると、「サプライズ・チーム」と呼ばれる資格は十分過ぎるほどある。だが、もともと地区優勝候補に推す声が多かったのも事実なのだ。

 チームの指揮を取るのは、名将ジェリー・スローン。ロースターには、重戦車型パワーフォワードのカルロス・ブーザー、守備的オールラウンダーのアンドレイ・キリレンコ、堅実で安定感のあるビッグマン、メメト・オカーなど、玄人筋をうならせる実力者がそろう。本来ならば、昨季の段階でプレーオフに出場しているべき戦力である。

 そのジャズが、なぜ今季に入ってブレイクしたのか?

 「好調の一番の理由は、ケガがないことだね」と大黒柱のブーザーは言う。「昨季はひどかった。主力に故障が多くて、ベストな状態でプレーできていなかったんだ」

 確かに、いまのところ、先発クラスの故障はほとんどない。昨季49試合に欠場したブーザーも、今季はこれまで全26試合に出場し、平均21.8点、11.8リバウンド(リーグ3位)、ダブルダブル19回(同1位)の大活躍。週間MVPにも2度選出されている。

 しかし、それだけで勝率73.1%という数字は説明できないだろう。特に、攻撃面での好成績──平均得点102.8(リーグ6位)、平均アシスト24.8(同3位)──は、ジャズの強さを解明する上で重要である。

 今季のジャズは、ボールの動きがスムーズだ。以前からオフェンスシステムに長けていたが、昨季はここまでリズム良くパスが回っていなかった。その背景には、ガード陣──2年目司令塔のデロン・ウィリアムズ、新加入のベテラン、デレク・フィッシャー──の活躍がある。特に、ウィリアムズが大きく成長したことの意味は大きい。ジャズの複雑なシステムに慣れた今季は、平均17.2点、8.8アシスト(リーグ5位)。ルーキーシーズンだった昨季と比べて、2倍近い数字である。

 アシストやパス技術の高さを褒めると、ウィリアムズはこう反論する。

 「大切なのは、1つひとつのパスじゃない。最終的に、シュートを打つ選手へボールを届けること。得点につながる決定的なアシストパスも必要だけど、そういうパスを誰かが出すために、ボールムーブの起点になることも重要なんだ」

 パスやバスケットカットで守備を切り崩し、ゴール下から簡単なシュートを沈める。それがジャズのスタイルだ。それを機能させるためには、システムの起点となるパサー型司令塔が絶対不可欠になる。ジョン・ストックトン引退以来、ジャズはウィリアムズのような選手を求めてきたのだ。

 キャリア最盛期を間近に控えた主力陣に、司令塔という最後のピースを付け加えたジャズ。今季に限れば、最終的にウェストの4位から5位に落ち着くと見られているが、将来性は抜群だ。

 どのプレーで来るのかわかっていても、あまりの精度の高さに止めることができない。対戦相手をジレンマに陥らせる、小憎らしいほど堅実なジャズの戦い振り。1990年代にリーグを席巻したこのスタイルが、再び猛威を振るう日も近いかもしれない。

嵐を呼ぶ男、アレン・アイバーソン

今季のサプライズと言えば、アレン・アイバーソンの移籍。19日に発表されたトレードで、10シーズン以上過ごした76ersを離れ、デンバー・ナゲッツへ(76ersはアイバーソンとイバン・マクファーリンを放出。ナゲッツは、アンドレ・ミラーとジョー・スミスに加え、1巡目指名権2つを手放した)。 20日までにデンバー入りするはずだったアイバーソンだが、ブリザード(暴風雪)の影響でチームへの合流が大幅に遅れた。デビュー戦となった22日のキングス戦、アリーナへ着いたのは、なんと試合開始の1時間前。96-101で敗れ、新天地での初戦を勝利で飾れなかったが、「フライトとドライブによる疲労」「チーム練習なしのぶっつけ本番」という悪条件の中、22得点・10アシストは立派の一言。

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