Column from EuropeBACK NUMBER
ロナウジーニョ、飛躍のシーズン。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2004/08/05 00:00
ブラジルで浪人生活を送っているリバウドはギリシャに新天地を求めているという。彼がFCバルセロナにいたのは、ほんの2年前のことで、その頃のブラジル代表では10番を背負っていた。ACミランでは控えとして過ごし、その後は泣かず飛ばずの選手生活を送ってきた。あのときのバルサにいたリバウドは、いまのロナウジーニョのような頼りになる10番だった。リバウドの左足がゲームを左右した。リバウドが消えると何もできず、それが敗因になった。
ライカールトのバルサは、ロナウジーニョに運命を託している。これは決して、珍しいことではない。どのチームにも頼りになる10番やエースストライカーがいて、誰もが特別な期待を寄せる。ファン・ハール時代、リバウドを抑えきれない他クラブはボールの出どころとなるグアルディオラにプレッシャーを集中させたことがある。2シーズン目を迎えるロナウジーニョにも、いろいろな対策が練られてくるだろう。ただでさえ、ボールコントロールがずば抜けたブラジル人だ。だが、誰にだって長所と短所がある。
ロナウジーニョとリバウドはどことなく似ている。独特のリズム感がある。利き足でのボール・タッチが多く、ボールを足元で受けることを好み、ひと呼吸置いて相手の出方を看視する嫌らしさがある。リバウドの絶頂期には、そのリズムはことごとく相手の裏をついては、驚くべきゴールを演出してきた。ロナウジーニョにおいても、彼のコンディション次第でゲームはどうにでも変わる。だから、ライカールトは彼を第2キャプテンのポジションを指名したのだろう。まるで学級委員を選ぶときのような選手の投票で、トップはプジョールだった。昨シーズンもルイス・エンリケ、コクーとともにキャプテンマークを腕に巻いていたカタラン人が首位で、2位は同票でロナウジーニョとシャビになった。そこで、指揮官はロナウジーニョを第2キャプテン、シャビを第3キャプテンに指名した。これはロナウジーニョに「君のチームだから」とリーダーシップをお願いしたようなものだろう。彼自身が精神的に強くなってもらうためにも。
ロナウジーニョはバルセロナに来た当初から戦術にはうるさい選手だった。ボールの流れがスムーズでなかったりすると、声をかけては指示を出していた。態度はベテランだったわけだ。また、偶然にもオレンジ色が払拭された。もしかすると、ファン・ブロンクホルスト以外のオランダ人選手を放出したのも、ロナウジーニョのためだったのかもしれない。さらには、バルサはデコ、エジミウソン、シルビーニョらポルトガル語を母国語とする選手も獲得してもいる。
ロベルト・カルロスは言う。
「彼はバルセロナでもっとも重要な選手で、近いうちに世界でナンバー1の選手になるだろうね。今シーズンでバルサがタイトルを獲得できるかどうかは別にして、これまでと違ったロナウジーニョが見られることは間違いないだろう」
ロナウジーニョは誰もが認める選手になる可能性を秘めている。ジダンやロナウドの名前にはまだ劣るけれども、ドイツ・ワールドカップまでの2年で彼らのポジションを奪うかもしれない。ベッカムばかりが目立っているマーケティング部門にも、少しずつ乗り出している。弟のロベルトが東京にも足を運んで、ナイキとペプシに続くスポンサーを探しにきたという。
不慣れな蒸し風呂のような日本で開幕前のキャンプを過ごしているバルサに漂う不安も、ひとり元気なロナウジーニョが和らげてくれている。