Number ExBACK NUMBER
桑田真澄 厳しき道なれど。
text by
出村義和Yoshikazu Demura
posted2007/03/08 00:00
もっとも、そういう状況に置かれることは当の桑田自身はとっくに承知している。何しろ、20年近くもメジャーへの夢を抱いてきたのだ。知識も豊富だ。
「今までもずっと競争の中でやっていたんです。周りのことは気にしない。自分は自分というマイペースで21年間もプレーしてきたんですよ」と、全く意に介していない。その桑田が希望しているのは、もちろん先発である。
「オープン戦では何回かチャンスをもらえると思うから、結果を残して先発をやってみたい」と、控え目ないい方だが強烈なこだわりが感じられる。
「日本の場合、先発で6イニングを2点に抑えたとしても、負ければノックアウトされたことになってしまう。でもこっちは違う。逆に『ナイスピッチング』『グッドジョブ』ということになる。僕はそういう正反対の評価をされるところで先発投手として投げたい」
キャンプ地での評判は今の段階では上々だ。「彼が成功してきた経験をチームに吹き込んでもらいたい」(リトルフィールドGM)という期待に十分応えているようにみえる。
フィールディングを始め、バント、バスターといった走者を進める練習などで一際目につくのが桑田の動きである。日本でもゴールデングラブ賞を8回も受賞した守備力と、巨人に入団当初、打者転向も取沙汰された打撃センスは依然として卓抜している。対照的に、他の投手たちは若い分、トレーニングされていない。ミスが目立つ。まだ、投げるのが精一杯という投手がほとんど。総合的な投手としての完成度という観点からみれば、桑田はチームのナンバーワンといってもよさそうだ。
「彼のプロフェッショナルな姿は若い選手の恰好の手本だ。マスミがどれほど素晴らしい投手であったかということは若い連中に話しておいたが、彼らは実際に練習してみて、よくわかったようだ」と、ジム・コルボーン投手コーチの評価も高い。
外部の冷ややかな目と、それを意に介さない冷静さ。
桑田が14年連続で負け越している弱小チームをあえて選んだのは、実はこのコルボーン・コーチと、トレーシー監督の存在があったからだ。コルボーン・コーチはオリックス・ブルーウェーブ(現バファローズ)時代に投手コーチを務めた経験があり、トレーシー監督も大洋ホエールズ(現横浜ベイスターズ)で '83年から2年間プレーして、日本野球に精通している。従って、桑田という投手の認識や、日本の野球レベルで21年間投げてきた投手に対する評価が正当に下されるということになる。キャンプ地での評判に接する限り、桑田の選択は間違っていないことは確かだ。
(以下、Number673号へ)