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「クラブを包丁に持ち替え…」上田桃子(38歳)がいま明かす“やめようという決断”「子供も欲しいし、違う方向から自分を見てもいいじゃないかと」
posted2025/02/24 17:00

昨季限りで第一線から退いた上田桃子が現在の心境を明かした
text by

桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Kenta Yoshizawa
発売中のNumber1114号に掲載の《[プロ20年目のピリオド]上田桃子「“楽しい”とか“笑う”より大切だったもの」》より内容を一部抜粋してお届けします。
クラブを包丁に持ち替え…10年ぶり料理教室へ
第二の人生の始まりに、上田桃子は料理教室通いを10年ぶりに再開させた。
クラブを包丁に持ち替え、和洋中のメニューの習得から、栄養学や食材の目利き講座まで行われる学びの場。12月のある日の食卓には、エビチリに鶏の唐揚げ、わかめスープが並んだ。
隣にはかつての戦友がいた。小学生時代に出会い、10代で同じコーチに師事した諸見里しのぶ。かつては激しく対抗心を燃やしたライバルから遅れること5年、昨シーズン限りで上田が第一線を退いたことで、2人はオフの穏やかな時間を共有した。
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「私は一度に二つのことを済ませたいタイプなので、学びに行って、しのぶにも会えて、一石二鳥。せっかちなので、何かしていないと楽をしているみたいで落ち着かないんです」
キャリアをひと段落させたばかりだというのに、寸暇を惜しんで次の可能性を広げようとする姿勢はコースにいる時と変わっていない。
38歳になった上田が、20年のプロ生活に区切りをつけると決めたのは、昨年9月に行われた国内メジャーの日本女子オープンだった。メジャーとは年4回のビッグトーナメントで、ツアー通算17勝の上田もこのタイトルだけは縁がなかった。「この数年はメジャーで勝ったらやめるというマインドでいた」と悲願を込めた大会で、決断を促されるような一打があった。
やめようという決断「来たわ、この時期が」
初日の12番だった。179ヤードと距離の長いパー3でティショットがグリーンサイドに流れた。
「5番アイアンで球が右にすっ飛んでいったんです。その球が出るときは、自分の調子は良くない。次のホールですぐに修正できれば『まだ戦える』と思えるけれど、あの時は修正が利かなかった」
直後の13番でドライバーショットがフェアウェイ真ん中をとらえても、「ただ真っすぐ行っただけ。意図して真っすぐ飛ばせたんじゃない」と不快な感覚は解消されなかった。初日は37位。優勝を諦めるような位置ではない。しかし、翌日に備えて練習場でボールを打つうちに心根が疼いた。