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「もう横綱を目指す実力はないな」貴景勝(28歳)がいま明かす引退の真相「平幕でいいならあと4、5年は…僕のポリシーでその選択はなかった」
posted2025/02/06 17:01

2024年9月秋場所で引退を表明した貴景勝
text by

佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kiichi Matsumoto
Number1112・1113号に掲載の《[土俵人生を語る]貴景勝「突き押しで拓いた相撲道」》より内容を一部抜粋してお届けします。
武士のように潔い引退会見
「小学校3年生から相撲を始め、横綱になることだけを夢見て頑張ってきたんですけど、横綱を目指す体力と気力がなくなったので引退しました。横綱になることだけを考えてきて、手をいっぱい伸ばしたんですけど、届きませんでした」
元大関貴景勝貴信が引退を発表したのは、2024年9月秋場所13日目のことだった。その目に涙はなく、堂々と前を向き、まるで武士のように潔い引退会見だった。
174cmの小さな体で貫いた、突き押し相撲。約6年のあいだ、大関を張った。
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土俵を去った今、穏やかな表情で振り返る。
「7月の名古屋場所で関脇に落ちることが決まって、まだこの時は横綱を目指す気持ちはあったんです。引退はまったく考えていなくて、次の九月場所に懸けようと思っていた。でも、千秋楽の湘南乃海戦で、また首を悪くしちゃったんですよ」
首が痺れ、熱く、ドンドンと波打つような痛みで眠れない夜が続く。次第に思考もネガティブになっていったという。
相撲人生を懸けた九月場所。慣例として10勝を挙げれば、また大関に返り咲ける。しかし、初日の御嶽海戦で、左のおっつけに力がまったく入らなかった。
「それまで自分は廻しを取られない自信があったのに、すぐに差されてしまった。そこで悟ったんです。『もう横綱を目指す実力はないな』と。2日目の相手はかつての付け人で、埼玉栄高校の後輩でもある王鵬でしたが、『彼に力負けするようなら最後にしよう』と思いました。結果、左四つになられて寄り切られ、いい時の自分だったら考えられない相撲で負けてしまったんですよね」
「平幕でいいならあと4、5年はできたかもしれない」
28歳という若さでの引退を惜しむ声も多かった。
「体が限界でも、気持ちさえあればイケるんですよ。今までもそうでした。でも『こんな相撲じゃ横綱になれないな』と思った瞬間に、気力がスーッと抜けていったんです。正直な話、平幕でいいならあと4、5年はできたかもしれない。でも、僕のポリシーとしてその選択はなかった。体がないし、技も突き押しと突き落としのふたつだけ。野球でいえばストレートとカーブしか投げられないような感じですよ。だから自分は、気持ちだけでやって来ていた。応援してくださる方も、僕のその気持ちの部分を買ってくださっていたと思うんです。だから、今でも選択は間違っていなかったと思う」
「心技体」の「心」だけを武器に、土俵に上がり続けてきたのだ。