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自給自足を求め群馬へ、“マタギレスラー”驚きの人生…FUMAは“模造ライフル”構えリングへ「移住先でプロレスをやるなんて(笑)」
posted2023/11/29 11:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
珍しい大会を取材した。10月14日、プロレスリングBASARAの群馬・甘楽町大会だ。「かんらまち」と読む。高崎から電車で30分ほどの場所。会場は甘楽中学の体育館だ。
メインイベントの前には町長による花束贈呈と挨拶も。この大会を主催したのは甘楽町だった。
プロレスの興行は基本的に都市部での開催が多い。群馬でいえば高崎や前橋。甘楽町でのプロレス興行は今回が初めてだという。
そのきっかけを作ったのが、メインのタッグマッチで勝利したFUMAだ。団体のシングル王者であり、甘楽町在住。もともと神奈川出身だが、2年前に移住してきた。
「自給自足的な生活、自然の近くで暮らすことに憧れがあったんです。1人で山で暮らして、自分が食べる分だけ賄うような。だから移住先でプロレスの試合をやるなんて思ってもみなかった(笑)」
会場最寄りの駅に着くと、“遠征”してきた観客向けに送迎車が待っていてくれた。同乗させてもらうと、あっという間に景色が変わる。駅前は住宅街だが、少し走ると山が見えてくる。
「普通の町からすぐ山に行けて、都心までも車で2時間くらい。暮らしやすい“里山”感が気に入ってます」
プロレスラーだと言うと、「頼もしいねぇ」
FUMAは東京農業大学の畜産学科出身。群馬は附属校がある関係で知り合いが多かった。
「同級生のおじさんが牧場をやっていて、時間がある時に手伝いに行ったりしてたんです。そういう中で群馬に縁ができて」
コロナ禍でプロレスの興行ができなかった時期、憧れていた山暮らしを実行しようと決意する。最初は古民家を買うつもりだったそうだ。だが調べてみると、地域おこし協力隊という制度があることが分かった。協力隊のメンバーを募集していたのが甘楽町だった。
「地域おこし協力隊は、移住したい人が基盤を作るためのサポートをしてくれる制度です。甘楽町では3年を上限に住む場所を用意してくれました。農業のバックアップも」
生活のあれこれに関して、あるいは農業に関しても、手続きのため役場に行く機会は多い。協力隊だから顔も話も通りやすかった。農業の研修に行ったり地域のお祭りを手伝ったりするうちに人のつながりも増えた。
「最初に考えてたみたいに1人で古民家を買っても怪しまれて、なかなか地域になじめなかったでしょうね(笑)。プロレスラーだと言うと敬遠されるどころか興味を持ってもらいやすかったですし。普通の人よりは体力があるので“頼もしいねぇ”と」