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「複雑な気持ち」のフェルスタッペンと「全力でサポートする」ホンダ…“時限つき”最強タッグそれぞれの胸中
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尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2023/05/31 11:03

モナコでも安定した強さを発揮し、今季4勝目を挙げたフェルスタッペンとレッドブル
この関係は、PUに関する新しいレギュレーションが導入される前年の2025年限りと決まっていた。2026年に向け、レッドブルはRBPTで自前のPUを開発・製造する準備を始めていたからだ。
ところがその後、F1はカーボンニュートラルに大きく舵を切った。2026年から導入される新PUに関するレギュレーションが、カーボンニュートラルを推進するホンダにとって魅力的なものとなったことで、ホンダが再参戦に向けて動き出す。そのため、レッドブルもホンダとの関係を継続しようと何度か話し合いを持ったが、すでに自前PUの開発・製造を行おうとしていたレッドブルとの提携は限定的なものにならざるを得ない。
ホンダとしては、復帰するならバッテリーだけのサポートでなく、内燃機関も含めたPU全体の開発・製造を行うことが大前提だった。そのため独自に復帰を目指し、アストンマーティンと組むことを決定した。
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「いずれはお別れを言うはずだったから、こうなることも受け入れなければならないんだろうけど、僕たちはいままで本当に良い関係を築いていた。だから、彼らがライバルチームと組んでレースするのをライバルとして見るのは、正直少し複雑な気持ちだ」
苦楽をともにした戦友への思い
フェルスタッペンの言葉を聞いて、胸を痛めたのが吉野だった。
「マックスがそれだけホンダのことを思っていたなんて、本当に言葉になりません」
さらに吉野は、レッドブルとアルファタウリという2チームにも思いを馳せた。
「2015年からスタートした私たちの挑戦は序盤かなり厳しい時期が続きました。しかし、2018年にトロロッソへPUを供給し、さらに2019年からはレッドブルともパートナーを組んだことで、私たちは大きく飛躍することができました。現在のホンダがあるのは、彼らが一緒に戦ってくれたから。彼らがわれわれに手を差し伸べてくれたおかげで、ホンダはここまでやってこられた。その感謝の思いを私たちは絶対に忘れません」
だからこそ、ホンダのスタッフは2026年以降のF1活動継続を喜びつつも、2025年まで続く、現在の関係を大切にしている。
吉野は言う。
「彼らとの関係は2025年限りで終了しますが、その最後の瞬間まで、ホンダはマックスを含めレッドブル、そしてアルファタウリとともに戦うことに完全に集中しています。私たちにできることは、彼らの気持ちに応えられるようにしっかりと仕事をし、全力でサポートすること。それが私たちの感謝のしるしです」
モナコGPの勝利は、その証のような完勝だった。
