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「複雑な気持ち」のフェルスタッペンと「全力でサポートする」ホンダ…“時限つき”最強タッグそれぞれの胸中
posted2023/05/31 11:03
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images / Red Bull Content Pool
F1モナコGPはマックス・フェルスタッペンとレッドブル・ホンダRBPTが勝利して、80回目となる記念大会は幕を閉じた。
その伝統の一戦を前に、フェルスタッペンは複雑な思いでいた。モナコGPが開幕する直前、ホンダが2026年からアストンマーティンにパワーユニット(PU)を供給する形でF1活動を事実上継続すると発表していたからだ。
フェルスタッペンにとって、ホンダは生まれて最初に乗ったF1マシンだった。レッドブルがホンダとパートナーを組んだ2019年、チーフメカニックとしてフェルスタッペンとともに仕事するようになった吉野誠に、フェルスタッペンはこんなエピソードを話したという。
「マックスが『こんな写真があるんだ』と、当時ホンダのコクピットに収まった子供のころの写真を見せてくれたんです」
いまから25年前の1998年3月、ホンダは車体も含めたフルワークスでのF1復帰を表明。翌年の1月から始まったテストで、テストマシンのステアリングを握ったのがフェルスタッペンの父親ヨス・フェルスタッペンだった。そのヨスに連れられてフェルスタッペンはサーキットを訪れ、テスト後に父親が乗っていたシートに座った。フェルスタッペンが吉野に見せたのは、その写真だった。
写真を見せられた吉野もまた、そのときテストに参加していた。
「私もこのとき、あなたのお父さんと一緒に仕事していたんだよ」と返すと、フェルスタッペンは驚き、そして笑ったという。
最強タッグ解消の不条理
その20年後の2019年に、フェルスタッペンはF1ドライバーとしてホンダと仕事を始めた。それはフェルスタッペンにとって、うれしい驚きの連続だった。
「ホンダのスタッフはヨーロッパの人たちとメンタリティが違うせいか、必要以上にドライバーとコミュニケーションを取らないけど、僕としてはそのほうがやりやすかった。だって、僕の意見にはいつも耳を傾けてくれたからね。僕が質問すれば、なんでも明確に説明してくれたし、どんなお願いにも常にしっかりと対応してくれ、次のレース、次のセッションまでに問題は解決していた。だから、僕はホンダと仕事するのが楽しかった」
フェルスタッペンとホンダの関係は、ホンダが2021年限りでF1活動を終了したことで幕を閉じるはずだった。ところが、レッドブルと姉妹チームのアルファタウリが2022年以降に搭載するPUを準備できないという事情から、ホンダが彼らの要請を受ける形で特別にPUの開発・製造を担当。レッドブルが新たに立ち上げたPU部門のレッドブル・パワートレインズ(RBPT)にそのPUを引き渡し、現場でもホンダのスタッフがサポートを継続することで両者の関係は続くことになった。