スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「箱根駅伝がマラソンをダメにした」はもう古い…駒澤大OB&青学大OBの存在感アップ 18年前、大八木監督に言われた「ウチはマラソンやってるから」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2023/03/09 11:03
3月5日の東京マラソン40km過ぎ、大迫傑(Nike)を引き離しにかかる山下一貴(三菱重工)。日本歴代3位となる2時間5分51秒で日本人トップ。山下は駒澤大OBだ
「生島さんさ、ウチはマラソンやってるから。藤田が学生でも戦えることを証明したし、これからも勝負できる選手が出てきたら、どんどんやっていくから」
あれから15年以上が経過したが、東京オリンピックには中村匠吾(富士通)が代表となり、さらにはトラックでは田澤廉が昨年の世界選手権に参加している。日本を代表する人材を輩出しているのだ。
そしてファイナリストの顔ぶれを見た時に特徴的なのは、7人の所属先が6社で、バラエティに富んでいる。大学と実業団には広義の意味でつながりがあり(大学時代から実業団の合宿に参加するのは、「お見合い」的な意味合いもある)、特定のルートが強化される場合もある。
しかし駒大は就職先が多岐にわたっており、どの実業団の練習メソッドにも対応できることを示している。これは、大八木監督が個人を観察し、
「あの子はスピード型でキレがあるけど、まだマラソンの体力はないな」
「この選手はじっくり鍛えていけば、面白い人材になる」
といったように、全員が同じ練習をするというより、ある程度、個人に寄せた「セミオーダーメイド」の練習にシフトしてきたことが影響しているかもしれない。いい形で実業団に送り出しているのは間違いない。
また、メンタリティも見逃せない。東京マラソンで好走した山下一貴は10月のMGCに向け、
「近い目標としてすぐに大会があるので、今までと変わらずやっていきたいと思ってます」
と話していた。
駒大で4年間競技を続けることで、心も体も給料をもらって競技をする準備が出来たことを証明している。
青学大・原監督の「マラソンやりたい人?」
駒大に続くのは、6人の青学大だ。過去10年間、箱根駅伝で優勝6回の強豪は、マラソンにも人材を輩出していることを示している。
私が取材を続けてきた印象としては、原晋監督のチャレンジ精神が選手たちに反映されていると見る。
青学大の特徴は、「チーム戦」でマラソンに臨むことだ。
2012年のびわ湖毎日マラソンで、出岐雄大が2時間10分02秒と好走したのも印象深いが、2016年の東京マラソンでは、日本人の2位、3位を下田裕太と一色恭志(ともに現・GMOインターネットグループ)が占めた。
このとき、原監督は夏合宿で「マラソンやりたい人?」と質問をして挙手をさせ、箱根駅伝が終わってからマラソン希望組でミニ合宿を張るなどして積極的にマラソン挑戦を促した。原監督は言う。