「当時はあまり笑っている姿を見たことがなかったです。何か課題にぶつかれば、なにくそって感じは出さずとも『どうやったら、できますか？　僕、やるんで』と一直線にくらいついてくるところがありました。どれだけ努力しても満足することがなく、立ち振る舞いから練習態度まで一切の妥協がない。その人間性には僕の方が学ぶことが多かったですし、やっぱりそういう選手が世界に行くんだなとあらためて思っています」

　大会で負ければチームメートと一緒に涙を見せたが、そこでもみんなをきちんと整列させ、挨拶に向かわせるのが冨安だった。

「僕の印象では、負けたときこそ『もっともっと』みたいなイメージがあって、試合に負けて帰ると、そのまま走りに行くみたいな。指導者として、オーバートレーニングは心配すべきかもしれません。でも、やらされるトレーニングは継続できないものですが、自分で何かを見つけてやることこそ身になるものですし、そんなときは納得するまでやらせていました」

　冨安が一番悔しがった試合を覚えていますか？　宮原さんに取材終盤、そんな質問をすると2014年、高1になってからのエピソードを話してくれた。すでにユースに昇格していた15歳の冨安。U-16日本代表としてアジア選手権に出場したものの、準々決勝の韓国戦に0-2と敗れ、U-17W杯への出場を逃している。韓国のエースFWイ・スンウに2点を決められ、とくに2点目は冨安も対峙しながら約50メートルの独走を許す形でゴールを決められた。

「（イ・スンウに）ぶち抜かれてね。あのときはめちゃめちゃ凹んでいましたし、その後のトレーニングは顔つきもちょっと怖かったですから。世界に行きたいと言いながら、自分が失点に絡む形で負けて、珍しく悔しそうにしていました。そうした経験も、彼にとっては刺激になったのだと思います」

　この夏のオフにも冨安が帰国した際に、会って話をしたという宮原さん。どんな話をしたのだろうか。

「（昨夏にアーセナルに移籍してから）最近はケガが多いので、『サイドバックは負担が大きいんじゃない？」みたいな話をしたら、『いや、向こうではもう“サイドバックの冨安”になってるんで』って。僕だったら、『いや、センターバックの方が……』と言いたくなる状況でも、彼のなかにはそういう逃げるような発想はないんだと思います。

　守備の約束事などが厳しかったボローニャ時代と比べると、アーセナルはある意味自由で、サイドバックでも攻撃時は相手ゴール前まで上がっていけて、攻守すべてにおいて関われるから『すごく楽しい』と言っていましたね」

＜続く＞

#3に続く

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