「他の選手のなかにはそんな冨安を横目にギリギリに練習に来て、着いたらいきなりボールを蹴って。練習が終わったら、好きなだけボールを蹴る子もいて……僕はその様子をずっと見ていて、あるとき冨安の周りに選手を集合させ、『キャプテンとして、これでいいのか？』と言ったんです。

　普通はみんなで分担すべきと思うところじゃないですか？　そしたら彼は、『僕はやれる人がやればいいと思います。早めに来ている自分が準備しておけば、みんなですぐに練習が始められるじゃないですか。僕は全然問題ないです』と言うわけです。その言葉にとっさに何も返せなくて……。僕はその場を収めるため、周りの選手には『すべてを人任せにするな！　今後は“冨安先生”と呼べ』なんて笑いにして終わらせました。中学生の冨安に大人な対応をされて僕がちょっと恥ずかしかったですね」

現在、松本山雅のトップチームコーチを務める宮原さん　©J.LEAGUE

冨安のあだ名は「課長」だった

　宮原さんは現役選手として、指導者として多くのサッカー関係者と接してきたが、冨安ほど練習や試合に臨む準備の大切さを理解している人には会ったことがないと続ける。

「練習や試合に向けて、ストレッチはもちろん、それこそ栄養補給から睡眠まで、冨安は中1の頃からこだわっていましたからね。最近も風呂上がりに1時間ストレッチしていると聞いて、『また汗をかいて、風呂に入った意味がなくなるんじゃないの？』とも思いましたけど。そういう意味で僕が出会ったなかでは、最も模範的な選手。僕にもあんな継続力があったら、もっと長くプレーできたんじゃないかって思ったりしますよ」

　言葉数は決して多くない。ただ、何をするにも冨安に任せておけば大丈夫。そんな安心感があったことから、「課長」というあだ名がついたこともあったそうだ。

写真は2014年7月のU-17日本代表で（冨安が15歳、高1のとき） ©AFLO

「一度、彼が中1のときに、中3の大会にマネージャーとして帯同させたことがあったのですが、ハーフタイムになったら何も教えていないのに、水や氷をすぐに準備して、選手をウチワで扇いでいるんです。気配りができ、冨安に任せておけば“間違いない” “ミスが起きない”そんな信頼感がありました。

『課長』というあだ名は、冨安の安定した仕事ぶりと、決して偉ぶらない態度が課長みたいだったからだと思います。あとは、若さに似合わない落ち着きぶりから『おじいちゃん』なんて言われていたこともありましたね（笑）」

冨安が一番悔しがっていた試合は？

　普段は感情を表に出すタイプではない。ただ、淡々としていながら、どんなときも信念がブレないところに冨安の強さがあるのではないか、と宮原さんは話す。

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