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《F1》元祖は撃墜王! フェラーリの象徴“跳ね馬”をめぐる物語と、90年の伝統を受け継ぐスター候補ルクレールの成長
posted2022/07/15 06:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
90年前の1932年7月9日、「カヴァリーノ・ランパンテ」と呼ばれる跳ね馬のエンブレムがスクーデリア・フェラーリのマシンに初めて装着された。
フェラーリがこの跳ね馬のエンブレムを使用することになったのは、いまから100年以上前の第一次世界大戦が関係している。
イタリア軍のパイロットであるフランチェスコ・バラッカ少佐が、撃墜したドイツの戦闘機についていた跳ね馬の紋章を戦利品として自身の戦闘機につけていた。その後、バラッカは戦死。するとバラッカの母親が、23年にイタリアのラヴェンナで行われたレースで優勝したエンツォ・フェラーリの勇姿に戦死した息子を重ね合わせ、愛機に残されていた跳ね馬のエンブレムをフェラーリのレースカーにつけてほしいと申し出る。エンツォは快諾し、29年に創設した「スクーデリア・フェラーリ」のロゴに採用した。
その3年後の32年7月3日にポンテデーラ・サーキットで開催されたオートバイのレースで、フェラーリは跳ね馬をバイクに装着。その6日後の7月9日、ベルギーのスパ・フランコルシャンで開催された24時間レースで、フェラーリは初めてレーシングカーに跳ね馬のエンブレムをつけた。
ロゴの上部にはイタリアの国旗のトリコロールカラーを配し、跳ね馬の背景の黄色はチームの本拠地であるモデナ県の県章のカナリアイエローをオマージュ。跳ね馬の下部の「SF」は「スクーデリア・フェラーリ」のイニシャルである。スクーデリアとは、イタリア語で「馬小屋・厩舎」を意味し、レースでは「チーム」を指す言葉だ。
跳ね馬を決定づけたワンツーフィニッシュ
このロゴが印されたアルファロメオ8C 2300 MMを駆ったアントニオ・ブリビオ&エウジェニオ・シエナ、ピエロ・タルフィ&グイド・ディポリトの2組のペアが、スパ24時間レースでワンツー・フィニッシュ(当時のフェラーリはアルファロメオ傘下)。跳ね馬とともに最高の結果を収めたエンツォは以後すべてのレースでこのロゴを付けるようになる。47年に設立された高級スポーツカーメーカーとしてのフェラーリでも、若干のデザイン変更を行なったものの、基本的に同じ跳ね馬の紋章を採用し続けている。
記念すべきスパ24時間レースからちょうど90年。F1オーストリアGP2日目となる7月9日に、フェラーリは2台のマシンのコクピット両サイドに貼っている跳ね馬のロゴを、前日まで使用していた現在のデザインから90年前のオリジナルデザインに変更した。同時期にイタリアのモンツァで開催されていた世界耐久選手権でも、出場する488GTEに同様のオリジナルエンブレムを採用した。