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《F1》元祖は撃墜王! フェラーリの象徴“跳ね馬”をめぐる物語と、90年の伝統を受け継ぐスター候補ルクレールの成長
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/07/15 06:00
フェラーリにとって記念すべきレースで見事勝利を収めたルクレール。今季3勝目で、ドライバーズランク2位につけている
フェラーリにとって今年は、もうひとつ重要な節目の年でもあった。1982年にゾルダーで行なわれたベルギーGPの予選中にジル・ビルヌーブが命を落としてから40年目にあたるからだ。5月にフェラーリのホームコースであるフィオラノで催された没後40年を記念したイベントで、フェラーリは当時ビルヌーブが走らせていたフェラーリの名車「312T」を走行させた。もちろん、そのマシンにも跳ね馬のロゴが躍っていた。
現在、F1のスクーデリア・フェラーリのチーム代表を務めるマッティア・ビノットは言う。
「フェラーリの一員になることは、跳ね馬の神話を受け継ぐこと。ジルはそれができた数少ないドライバーだった。たった6勝しかしていないが、全身全霊を傾けて走る姿勢に多くのティフォシ(フェラーリの熱狂的なファン)とわれわれチーム全員が胸を熱くした」
真紅の伝統を受け継ぐ者
没後40周年のイベントで、ビルヌーブのファイティングスピリットが宿る312Tのステアリングを握ったのが、フェラーリで次世代を担うスターとして活躍するシャルル・ルクレールだった。
「このマシンを走らせるためのドライバーに選ばれたことに感動している」
ルクレールはそう語った。
没後40年目に312Tを走らせ、跳ね馬のデビューレースから90年後にオリジナルの跳ね馬とともにF1のレースに出場したドライバーは、世界でひとりしかいない。そして、ルクレールはそのメモリアルレースとなったF1オーストリアGPの決勝レースで、王者マックス・フェルスタッペン(レッドブル)をコース上で3回オーバーテイクするという見事な走りで今シーズン3勝目を挙げた。
今年は、エンツォ・フェラーリがマラネッロに小さなファクトリーを創業した1947年から75年の節目。戦後間もない厳しい時期に大衆向け自動車ではなく、時流に抗ってレーシングカー製造の夢を追い、すべてを注ぎ込んだエンツォ。バラッカの死後、エンツォが受け継いだ跳ね馬は、そのデビューレースから90年後、レッドブルリンクで蘇った。