それにしても、履正社高当時の寺島成輝の投げっぷりといったら、なかった。

　試合前の遠投から、流れるような身のこなしでしなやかに腕を振る。100m近い距離をまっすぐな軌道で白い糸を引いて、思わず見とれるほど。

　試合が始まってからは、その投球はさらに冴えわたる。コンスタントに140キロ前半をマークする快速球にスライダー、カーブ、チェンジアップを交え、どの球種も両サイドにビタビタきめながら、緩急で打者のタイミングを外す。まさに、つけ入る隙のないピッチングを展開して、「こんなピッチャー、高校生が打てるわけない」と思った。

履正社高時代の寺島成輝。ヤクルトのドラフト1位で入団　©BUNGEISHUNJU

　1年目から一軍で10勝すると、私は本気で信じていたものだ。

プロ野球スカウトの指摘「そういうピッチャーほど危ない」

「そういうピッチャーほど、実は危ないんですよ」

　そう話すスカウトは、高校時代、全国有数の快腕として知られた実力派だった。

「寺島は、履正社に入ってすぐ試合で投げてたんです。1年の秋には、大阪どころか、近畿地区でもNo.1のサウスポーでしたからね」

　それのどこが「危ない」のか。順風満帆じゃないか。

「これはよくあることなんですけど、寺島のように、早い時期に絶対的エースになってしまうと、高校時代にやらなければならない“強化”という部分が不十分になりがちなんです」

　つまり、「実戦登板中心」の高校野球生活になりやすいという。

「高校野球は春・秋の県大会や夏の甲子園予選以外にも、週末の土日に必ず、2試合、3試合と練習試合があるでしょ。早い時期から名前が売れると、その投手と対戦したくて、練習試合の申し込みが殺到する。そうすると、土日は投げさせないわけにはいかないから、その看板投手は、疲れていない状態で、土曜日を迎えなきゃならないわけです」

プロ野球スカウトが“安心”できる高卒投手とは？

　おのずと「平日」の練習量を、セーブせざるをえない。

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