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プロ野球スカウト「あの年は田中正義に柳もいて…」6年前、あの「高卒ドラ1投手」2人は今「1年目から一軍で10勝すると思ったが…」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/03/04 17:20
6年前のプロ野球ドラフト会議。写真は5球団が1位指名で競合した、創価大の田中正義投手を引き当てたソフトバンクの工藤公康監督(当時、左から2人目)
「ウチだって欲しかったですよ。あれだけの身体能力持ってるピッチャーなんて、そうは出てこない。あの年は、田中正義に柳でしょ。外れ1位で5球団が重なった佐々木千隼(桜美林大→ロッテ)に、東京ガスの山岡もいて、ウチも相当悩みましたよ……。即戦力狙いじゃなかったら、藤平行ってたでしょうね」
ストライクゾーンが低くなってきたら、20勝すると思ったという。
「小学校5年で、あのでっかいソフトボール、70m投げて、中学では走り高跳びのジュニアオリンピックチャンピオンでしょ。下半身だけじゃない……全身のバネと馬力がとにかく抜群。スマートっていうわけじゃないんだけど、2人で走っていて、相手からグイグイ距離を離して走っていく姿なんか、ホレボレしましたね」
確かに、実戦のマウンドでは、プロで3、4年投げている投手が横浜高のユニフォームを着ているような逞しい投げっぷりに、見ているだけで圧倒されるようだった。
150キロ近い剛速球は、はっきりしたボールゾーンでも、打者が思わず振らされてしまうような威圧感があった。
「テークバックだけは、他人がいじったらあかん」
プロ3年目には、イースタン・リーグで9勝を挙げて、奪三振の山を築き、さあ4年目の来シーズンは……というところから、パッタリと「消息」を絶った。
「うーん。やっぱり、コントロールなのかなぁ……。もともと四球の多いピッチャーなんだけど、藤平の場合は左右にブレるんじゃない。テークバックが大きいタイプだから、高く抜けるブレになって、プロでは長打を食らう。そこらへんなのかなぁ」
以前、大学、社会人野球で投手の指導歴がある方が、こんなことを教えてくださった。
「ピッチャーのテークバックだけは、他人がいじったらあかん。あれは、本人の感覚だからな。テークバックが大き過ぎるから小さくしろ……って言われても、本人はこれがちょうどいいと思ってテークバックとってるんだから、大きいなんて感覚ないんよ。それを、コーチに言われたからって無理して変えようとすると、フォーム全体のバランスがわからなくなる。結果、リリースポイントの感覚まで失って、コントロール破壊につながるんよ」
「1年目から一軍で10勝する」私は本気で信じていた
一方で、ヤクルト・寺島成輝も、入団4年目の2020年には、中継ぎで30試合に登板し、この先イニング数を増やしていけば……と、ヤクルトファンの胸を熱くさせてくれたものだが、やはりその後が「音信不通」になっている。