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家族まで大バッシング、人違いレッドカード退場事件…どん底にいた家本政明を救った言葉とは? “日本一嫌われた審判”の独占手記 

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家本政明

家本政明Masaaki Iemoto

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photograph byJ.LEAGUE

posted2021/11/02 11:03

家族まで大バッシング、人違いレッドカード退場事件…どん底にいた家本政明を救った言葉とは? “日本一嫌われた審判”の独占手記<Number Web> photograph by J.LEAGUE

2018年、町田MF平戸太貴へ退場を命じる家本氏

 とはいえ、「一体自分には何が足りないのか」「何を勘違いしているのか」「何を見落としているのか」が全くわからず、なかなか改善の突破口を見いだせずにいました。

 そんな悶々とした日々を過ごす中、ある時、レイモンド・オリビエさん(イングランドのPGMOLという審判独立組織で全体を統括していたすごい方で、日本サッカー発展のためにJFAが専属契約していた)に相談してみました。

 すると彼は、こんな言葉を返してくれました。

◇◇◇

「日本の審判員は、フットボールや “Gameの精神” と向き合わずに、競技規則の表面的な部分ばかりを過剰に気にする傾向があります。ハッキリ言うと、フットボールの本質が見えていません。フットボールにとって大事なことは、皆がフットボールを楽しむことです。フットボールは、激しく、知的で、美しいものです。
 もちろん問題を起こすのは、いつも選手からです。だからといって、審判が選手のリアクションや小さな出来事にいちいち過敏に反応して頻繁に笛を吹いたり、カードを出すことをフットボールは求めていません。選手に共感し、スタジアムに共感し、フットボールに共感することが大事なのです。最少の笛とカードで、最大の喜びと美しさを創り出すことが大事なのです。
 これは、競技規則に書いてありません。日本人は本当に議論すべき大事なことよりも、競技規則にある17条のことだけを議論し、曖昧さを捨てて白黒の正解だけを求め、上から言われたことだけを重視して、自分の考えを表現しません。それではフットボールは良くなりませんし、誰もフットボールを楽しむことができません。
 家本さん、あなたはとても “良いレフェリー” です。ただ、まだ十分ではありません。もっと根本的な部分を改善できれば、あなたは “素晴らしいレフェリー” になれます。そのためには、競技規則の表面的なことから自由になって、フットボールのフィロソフィに忠実になる必要があります。今のあなたはそこが十分ではありません。
 ですが、あなたはすでに気づいていますよね。あなたがフットボールのために何をすべきかを。 “外野の声” が、あなたの気づきを邪魔するでしょうが、ひるまず前に進んで下さい。フットボールは待っています。あなたの新たなチャレンジを。この話は、多くの日本人レフェリーにとって難しい話ですが、あなたなら私が言っていることの核心をわかってくれると思いますし、実現できるポテンシャルを十分もっています。どうかフットボールの本質と向き合って、“真のレフェリー”になってください。そして日本に本当のフットボールを根付かせて下さい。あなたなら必ずできます。恐れずチャレンジしてください」

◇◇◇

 衝撃的でした。僕は “評価の奴隷” から脱出して自由を取り戻したと思っていたのですが、それは「見せかけの自由」であって、選手や見ている方の自由を奪った「自分勝手な自由」だということに、このとき気づかされました。

レフェリースタイルの再構築

 レイさんの話を受けてから、僕はフットボールの歴史や競技規則の歴史的経緯や存在意義を読み込み、イギリス文化や歴史、価値観、キリスト教について学びました。それだけでなく、日本の文化や歴史、日本人特有の価値観、異文化コミュニケーション、倫理学、心理学、哲学といった様々なジャンルの学術書を幅広く、時に深く、学んでいきました。

 その学びをもとに、2014年から通ったビジネススクールでの学びをミックスさせて、「皆がフットボールを楽しめるレフェリング」「フットボールの競技力が向上するレフェリング」「顧客の創造ができるレフェリング」の3つを実現させるために、自分のレフェリースタイルを再構築しようと、再び歩きはじめました。

【次ページ】 【最終章 フットボールの本質と向き合う/2019~21年】

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