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<大西勝敬コーチが明かす>
町田樹が燃え尽きた夜。
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYukihito Taguchi
posted2015/04/02 08:00

エース羽生結弦を脅かす存在として、期待が高まる中でなぜ幕引きを決めたのか。
ともに戦った師が明かす“引退秘話”。
「この全日本をもって現役を引退することを本日決断しました」
世界選手権代表選出の挨拶だったはずの時間は、誰の心にもショックを与え、その不在によって空いた穴は埋まっていない。
ただしこの人の受け止め方は違っていた。
「知ったときは、嫁はんと大笑いしました。あの子らしいな、と」
楽しい思い出であるかのように快活に笑ったのは、この2シーズン、町田樹の指導にあたってきた大西勝敬である。そして笑い声のあと、「実は」と切り出した。
長野で行われていた全日本選手権。フリーを経て総合4位にとどまった2014年12月27日から日付が変わり、午前2時過ぎのことだ。大西の部屋を町田が訪ねてきた。
「先生、明日、引退を発表します」
ひとしきり言葉を交わしたあと、大西は問いかけた。
「(上海の)世界選手権代表になったらどうする」
町田は答えた。
「もし選ばれたら、一緒に行きましょう」
夜が明けて、長野の会場をあとに帰阪した大西は、テレビ中継で町田が代表に選ばれたのを知った。その直後、知人の記者から「代表辞退」を伝えるメールが届いた。
「きっと、1日考えて決めたんでしょうね」
そして妻と笑ったのだと言う。
それは会場を包み込んだ衝撃と対照的だった。「残念」「もったいない」「何故このタイミングで」。そんな言葉が充満していた。この2年の急成長、今日の日本いや世界での位置を考えれば当然だ。コーチとしてはなおさらそう感じるのではないか。
こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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