松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
敗れた直後に勝者を祝福する難しさ。
松山英樹がデイの家族に見せた表情。
posted2016/05/17 11:30
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
最終日最終組は、優勝に最も近い位置からラスト18ホールを回る憧れのポジション。だが、2人のうちのどちらかが勝利を飾れば、どちらかは敗者になる。
大観衆から拍手喝采を受ける勝者にとっては夢見心地のひととき。だが、悔しさを噛み締めながら目の前の勝者を讃える敗者にとっては、なんとも残酷なひとときとなる。
米ツアーが主催する「第5のメジャー」、プレーヤーズ選手権で最終日最終組を回ったのは、ジェイソン・デイと松山英樹。4日間首位を守り通し、完全優勝を達成したデイが、両手を広げ米ツアー10勝目の喜びにむせんた傍らで、最終日をデイと4打差の2位で迎えながら6打差の7位に終わった松山は、悔しさを噛み締めながら18番グリーンを降りていった。
史上最悪の平均スコアだった3日目に松山が躍進。
フロリダ州ジャクソンビル近郊にあるTPCソーグラスは、17番の浮島グリーンで知られる屈指の難コース。その敷地内には米ツアーの本拠が置かれており、ソーグラスを「第5のメジャー」にふさわしい状態に仕立てて大会を開催することは、米ツアーのプライドと言っても過言ではない。
予選2日間。選手たちは「グリーンはソフトだ」と口を揃え、ピンをデッドに狙ってはバーディーを量産した。初日はデイが、2日目はコルト・ノストがコースレコードに並ぶ9アンダー、63をマーク。この35年の大会史上、最もスコアが伸びたバーディー合戦は観衆を沸かせ、大会を盛り上げた。
だが、3日目は一転してグリーンが固く速くなった。予選通過した76名のうち60名がダブルボギー以上を叩き、3パット以上を喫したグリーン上の“惨事”は合計149回。この日の平均スコアは大会史上最悪の75.59となったが、その中で、ベストスコアの65をマークしたケン・デュークと67をマークした松山の大健闘が光った。
振り返れば、予選2日間は全体的にスコアが伸びた一方で、松山のゴルフはエンジン全開とはいかなかった。初日は「いいところも悪いところもあった」という足踏み状態。2日目は「ショットとパットがチグハグで、もどかしい1日」。
それなのに、グリーンが突如コンクリートのように固く速くなり、大半の選手がスコアを落とした3日目、松山は逆にスコアを伸ばして一気に2位へ浮上した。
そうできたのは、なぜだったのか。会見では米メディアからも「なぜ?」と問われた。松山は首を傾げながら「なぜいいか? それは、わからないです。わかっていたら、もっといいプレーができているはずなので」。
理由はわからないが、なぜか好スコアが出た。「つまり、偶然ってことかい?」と会見後に米国人記者が不思議そうに尋ねてきた。ゴルフゆえ、偶然の要素もあったとは思う。だが、プレーの内容もスコアも順位も、良くなるため、良くするための必然的要素もあったはず。そうでなければ、「鍛錬」「努力」「工夫」といったものが無用の長物と化してしまう。