松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
敗れた直後に勝者を祝福する難しさ。
松山英樹がデイの家族に見せた表情。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2016/05/17 11:30
優勝を決めたデイに、息子がかけよる。祝福の意思を示した松山は、ゴルファーの鑑だった。
新パターからいつもの型に戻した安心感?
では、3日目の急浮上をもたらした必然要素とは何だったのか。
「心技体」の「技」の面から振り返れば、松山自身も感じていたパターチェンジが、その1つだったのかもしれない。
「初日と2日目は、マレット型のセンターシャフトのパターに太めのグリップを挿して使った。今日(3日目)は、ずっと使っているピン型のスコッティキャメロンに戻し、グリップも細いものに戻した」
いわゆるエースパターに戻したことで安心感、安定感が得られたようだが、それは試合で使ったことがなかったマレット型を思い切って試すという冒険をしたおかげで「気分転換になったのかな」と自己分析。
マレット型のパターを2日間使ったが、セットアップやストロークの何かが矯正されたというようなテクニカルな効用がもたらされたわけではなく、精神面に働きかけたリフレッシュ効果が功を奏したということになる。
それが、偶然か、必然かと考えると、どちらとも受け取れて判断が付かない。だが、ともあれ松山のパットに対する気持ちが前向きになり、メンタル面が技術面に作用して好結果につながったことは間違いない。
最近の松山は「気分」をより重視するように。
最近の松山は以前より「気分」や「メンタル面」を重視するようになったと感じられる。そう言うと彼はきっと「いや、普通っすよ」と答えるだろうけど、彼が口にする言葉の端々に、メンタル面を意識すればこその表現が微妙に増えつつある。
マスターズ最終日の夕暮れには「精神的にきつかった」と、苦しかった胸の内を珍しく明かし、言葉に変えた。
そしてプレーヤーズ選手権最終日の夕暮れは、こんな言葉。
「すべてに対して不安がちょっとずつあった。それが悪い方向へ走ったのかな」
小さな不安も重なり合えば大きな不安になり、ゴルフを乱す。技術や肉体の問題ではなく、心の片隅にあった「ちょっとずつの不安」を敗因の1つに挙げたこと。それは、技術的課題があるレベルまでクリアされ、課題となすべきものが次段階を迎えつつあることを示しているのではないだろか。