スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
スポーツマンと男気。
~米国で今年を代表する選手は?~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/12/07 10:30
ガララーガ(左)とジョイス審判。「あの試合は僕のベストだった。またああいう試合をしたいと思ってるよ」と笑顔で語ったガララーガ
〈スポーツ・イラストレイテッド〉の選定するスポーツマン・オブ・ザ・イヤーが決まった。2010年の受賞者はドゥルー・ブリースである。ブリースはニューオーリンズ・セインツのQBだ。彼は、セインツを球団初のスーパーボウル王者に導いた。その功績は大きい。
だが、受賞の理由はもうひとつあった。
ブリースがセインツに入団したのは2006年のことだ。当時、ニューオーリンズの街は潰滅状態だった。'05年8月、ハリケーン・カトリーナの襲来によって甚大な被害がもたらされていたからだ。死者の数は、ルイジアナ州だけで1500人を超えた。
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ブリースは街の復興に尽力した。それも通りいっぺんの寄付活動ではない。彼が組織した財団は5年間で600万ドルを超える基金を集めた。医療、教育、福祉など使い道は多岐にわたる。いわゆる人道的活動にはちがいないが、むしろ私はブリースの男気を認めたい。セインツに入団したころ、彼は肩の手術でほとんどパスを投げられない状態だった。いいかえれば、彼自身の復興と街の復興とは切り離せない関係にあった。
誤審に完全試合を奪われたガララーガ投手が忘れられない。
男気は、スポーツマンにとって不可欠の要素だ。この賞に「アスリート」という言葉や「ニュースメーカー」という言葉が使われていないことにも、私は注目したい。
するともうひとり、見事な男気を感じさせてくれた選手の名が浮上してくる。
デトロイト・タイガースの投手、アーマンド・ガララーガである。
ご承知のとおり、ガララーガは「誤審によって」完全試合を奪われた投手だ。連続26個のアウトを積み重ねながら、27人目の打者を出塁させたばかりに、彼の完全試合は潰えてしまった。本人の責任ではない。一塁塁審ジム・ジョイスが、アウトと判定すべきところでセーフの判定を下してしまったためだ。
事件が起こったのは2010年6月2日の夜だった。舞台はデトロイト。相手はインディアンス。観衆は1万8000人足らず。
9回表2死、ガララーガは最後の打者ジェイソン・ドナルドを打席に迎えていた。ドナルドは外角球をバットの先に引っかけた。打球は一塁手ミゲル・カブレラの横に転がった。打球をつかんだカブレラは、ベースカバーに入ったガララーガに速い球を送った。球を受けたガララーガは、ちょっとためらうようにベースを踏んだ。今季3人目(5月9日にダラス・ブレイデンが、5月29日にロイ・ハラデイが達成していた)の完全試合は、この瞬間、なしとげられていたはずだった。
だが、塁審ジョイスは両手を横に広げた。タイガースの監督ジム・リーランドは猛抗議に走った。観客席は騒然となった。インターネットのリプレイを見ても、ガララーガの足は明らかに一歩早くベースを踏んでいる。