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咆哮する猛虎メディアを手懐けた、
城島健司の言葉を尽くすプロ意識。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2010/11/24 10:30

咆哮する猛虎メディアを手懐けた、城島健司の言葉を尽くすプロ意識。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

今季の成績168安打は、1997年に古田敦也が記録した捕手のセ・リーグ最多安打記録を抜く大記録でもあった

記者の問いかけに野球哲学で応答する城島のクレバーさ。

 記者とのやりとりという点においても、城島の取材は非常に面白い。

 彼はただ質問に答えているのではなく、一人の選手として野球についての「語り」を入れてくれるのだ。

 例えば、6月4日のオリックス戦で下柳の好投を引き出すと「やっぱりピッチャーはストレートですよね。どれだけ、変化球がいい投手だって言っても、ストレートが走らないとね。下さん(下柳)もそう感じたでしょうね。まぁ、下さんは、前から分かっていたでしょうけど」と答えた。

 7月20日の広島戦では、延長10回表、1死一、三塁のピンチで、相手のスクイズのサインを見破りながら、ウェストした球をバットに当てられたことがあった。「やってはいけない失敗だった。バットに当てられないところに投げさせないといけなかった。僕の指示で野手の全員が動くわけだし、そこは反省しないといけない。敗因にならなかったことだけが救い。打ってくれた野手に感謝です」といった風だ。

理路整然とした城島の言辞にはメディアも襟を正す。

 とはいえ、城島はただ従順に対応してきただけではない。的を射ないメディアの質問に対し、真っ向から反論することもあった。

 6月5日の対オリックス戦、9回裏、4-9で負けている状況で一塁走者だった城島が二盗を決めた。試合の大勢が決まっている展開で盗塁をすることは「挑発行為だとオリックスの岡田監督を怒らせたのではないか」という質問が飛ぶと、城島は言い返した。

「岡田さんが言っているのは勝っているチームが負けているチームにした時に問題だと言っているんでしょう。勝っているチームが譲る塁は行くでしょう。アメリカだろうが、日本だろうが。(遺恨について)みなさんが騒いでいるだけで、やっている選手は意識していないですよ」

 6月30日の中日戦ではチェンに抑えられ、「今年チェンの調子は良くないけど、今日は良かったですね」と問われると、城島は血相を変えた。

「誰がそんなこと言ったの? 俺言った? 言ってないよ。チェンは前からもずっといいよ、いい投手だよ」

 こうしたやり取りを繰り返していくと、メディアの方も城島と向き合うようになる。紙面を埋めるだけのコメントを取るような当たり前の質問を避けるようになるのだ。

 城島はシーズン中盤以降、常に「今日の勝負どころ」について語るようになったのだが、それが記者の方からも的を射た話がでると、城島はにっこりと笑ったものだ。

「そこだよ、俺もあの場面が勝負どころだと思ったよ。分かるようになったんじゃない」

 そう言った後は、すらすらと試合を振り返るのである。

 まさに、これがメディアと選手との友好な関係なのだろう。選手はある一定の時間を割いてくれる。一方で、聞く方も節度を持って質問する。

 そこにあるのは、どちらもプロフェッショナルという意識である。

【次ページ】 プロとしての姿勢を言葉で表現することの重要性。

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城島健司
阪神タイガース

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