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咆哮する猛虎メディアを手懐けた、
城島健司の言葉を尽くすプロ意識。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2010/11/24 10:30

咆哮する猛虎メディアを手懐けた、城島健司の言葉を尽くすプロ意識。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

今季の成績168安打は、1997年に古田敦也が記録した捕手のセ・リーグ最多安打記録を抜く大記録でもあった

 初っぱなのヒーローインタビューからして痛快だった。

 開幕戦でのことである。

「長崎県佐世保市から来ました城島健司です。(中略)いい時も、悪い時もありますから、悪い時は、みなさん、お手柔らかにお願いします」

 今年、阪神に入団した城島は開幕戦で3安打4打点のド派手なデビューを飾ってお立ち台に上がると、そういってファンを喜ばせたのである。

 翌日にはサヨナラ本塁打を放ち存在感を見せつけると、全144試合に出場し、シーズン3割3厘28本塁打を記録。ゴールデングラブ賞も獲得した。11月21日にはチームの勝利に貢献するプレーをした選手に贈られる「ジョージア魂」賞の年間大賞に選出された。

 つごう1年で、完全にタイガースファンの心をつかんだのである。

関西の虎メディアをも魅了する城島の豊潤な言葉。

 いや、ファンだけではない。きわめて特殊と言われる“タイガース・メディア”でさえ、同様なのである。彼の放った輝くようなパフォーマンスと、開幕戦に代表されるような痺れる一言一句の虜になっていた。

「ジョーさんはプロ中のプロですよ。どんな時でも、質問に答えてくれますし、話が面白い。多分、数えてもらったら分かると思いますが、負けた翌日の紙面は、ほとんどジョーさんですよ。負けても話してくれるんです。本当はそうあってはいけないんでしょうけど……。もちろん活躍すれば載りますし、1週間でどんだけジョーさん使うねんって感じですよ」

 とは、あるトラ番記者の証言である。

 今季、城島はどんな試合になっても、メディアの前に立ち続けてきた。勝った時はもちろん、敗戦の責任が自身にありそうな時でも、矢面に立って来た。敗戦時には口数が少なくなる選手が多い中、彼だけはどんな時も必ずメディアの前で口を開いてきたのである。

 その心構えは、まるでインタビューに答えることがプロのアスリートの仕事であるかのようだった。

過剰なまでのタイガース依存が選手とメディアの軋轢を生む。

 プロ野球選手とメディアの関係―――。

 中日・落合監督とメディアの関係があまり良くないということが漏れ伝わってくることはあったが、タイガース・メディアもこれまでそう上手くいっていたとは言い難い。

 一部主力選手が新聞報道に掲載された自身のコメントを、ブログで真っ向から否定するということが、かつて何度かあった。

 そういう不幸な出来事の裏側を今までの経験から推測すると……上司から「何が何でもコメントを取ってこい」と厳命を受けた記者が、口数の少ない選手の声を断片的に拾って記事を書くからそうしたことが起こるのだろう。ひどい場合は、質問にちょっとうなずいただけでも、あたかも選手が話したかのように書く場合もあると、聞いたこともある。

 お互いが仕事だという観点に立ち返れば、ユニフォームを着ている以上は勝った時しか話さないというのは、プロのアスリートとしての務めを果たしていないといえる。しかし、だからといって、記者が都合のいいように記事を書いていくというのも大問題である。どちらが悪いかという問題ではなく、そうした悪循環が渦巻いていることが、いびつな現象を導くのだ。

【次ページ】 記者の問いかけに野球哲学で応答する城島のクレバーさ。

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