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<ヤクルト新監督の野球哲学> 小川淳司 「燕を甦らせた男の眼力と深謀遠慮」
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byDaisaku Nishimiya
posted2010/11/19 06:00
不振のヤクルトを見事に生き返らせた。本人と関係者の
証言をもとに、新監督の素顔とその手腕に迫る。
「自分でいいのかな、というのが正直な気持ち」
9月20日、小川淳司はスワローズの来季の監督に就任することが決まった。その第一声がこれだった。プロ野球の監督は、「オレが」「オレだ」と肩を怒らせて前に出る人がなるものだというイメージがあるが、こんなに謙虚な就任コメントはあまり例がないだろう。
「いや、謙虚でもなんでもない。ぼくは選手としての実績もないし、ネームバリューもない。指導者としても立派な成果があったわけじゃない。それが12人しかいないプロ野球の監督のひとりになるんだから。自分には不相応な仕事だとほんとうに思っています」
では、ひたすら「身分不相応」とへりくだり、監督就任に困惑しているかといえば、もちろんそんなことはない。戸惑いながらも引き受けたことはなにより意欲の表れだろう。
「こんな話は一生に一度あるかないか。そういう話をいただいた。やってやろう。野心のようなものも多少はありますよ」
根拠のない野心ではない。
監督代行としてスワローズの指揮をとるようになった5月27日の試合前の時点で、スワローズは13勝32敗1分けと不振にあえいでいた。交流戦では9連敗という不名誉な記録も残した。勝率わずか.289で、負け越しは19もあった。
ところが、小川が監督代行に就任すると、チームは劇的な立ち直りを見せる。小川が代行になって以降の勝率は.621で、19あった借金を完済し、4つの貯金まで作った。最後は息切れしたが、一時はクライマックスシリーズ争いに加わる勢いを見せた。このような劇的な回復を導いたのは、なんといっても小川の手腕といっていい。監督としての野心を持っても当然だろう。