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イチローとマリナーズ、
10年目の「異常事態」。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byKYODO

posted2010/08/07 08:00

イチローとマリナーズ、10年目の「異常事態」。<Number Web> photograph by KYODO

7月25日は2年ぶりに松坂大輔と対戦したが3打席無安打に抑えられた。空振り三振、一ゴロ、三ゴロ。この日のイチローは5打数無安打

態度を硬化させるフィギンズが露呈したチームの亀裂。

 これとは正反対に、マリナーズの場合、事件翌日のフィギンズの言動はさらに事態を悪化させていた。

 監督、GMと話し合ったものの「自分にとっては勝つことがすべて。どんな状況であろうと自分が毎試合戦い続けることを止められる人間は、このクラブハウスに誰もいない」と、とりつく島もない態度に終始したのだ。

 シーズン途中で引退してしまったケン・グリフィーもワカマツの起用法に不満を抱いていたとされるが、長年強豪エンゼルスでプレーしてきたフィギンズの首脳陣批判とも受け取れるこの発言で、マリナーズのチーム内に入った深い溝を窺い知ることができるだろう。

 シアトルタイムズ紙のラリー・ストーン記者も、自身のブログで「自分の野球人生で今年のマリナーズほど挫折感に包まれたチームを見たことがない」という元選手の言葉を紹介し、また「マリナーズ史上最も失望したチームは?」という読者アンケートを実施すると、約7割近くのファンが今年のマリナーズを選んでいる。

消化試合でも手を抜かない、誇り高いイチローだが……。

 もちろん、チームとイチローの個人成績は別物だという考え方もあるだろう。

 だが、首位争いの中で常に接戦を戦い、どの打席でもチームから安打を期待されている状況と、多くの試合で開始早々に大量点を許し、惰性で試合が進む中で1人で安打を狙いにいくという状況では、モチベーションに大きな差が生じてしまう。

 さらにチーム事情などお構いなしに、記録達成が近づくにつれてイチローのためだけに日本人メディアの数が増えていくという別の事情もある。消化試合と化したシーズン終盤に、そんな“大騒ぎ”を見守る他の選手の心情を考えると……チーム内でかつてのようなイチロー・バッシングが起こらないかと心配になる。精神安定剤のような存在だったグリフィーも去った中、チーム内で起こる様々な重圧も、たった1人で処理していかねばならないのだ。

 イチローにとって相当過酷な残り2カ月になりそうだ。

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