南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
南アW杯を“名物”指揮官で堪能する。
監督が個性的すぎるグループH!
text by
西部謙司Kenji Nishibe
photograph byLatinContent/Getty Images
posted2010/06/04 10:30
チリ代表監督のマルセロ・ビエルサ。知的で冷静な監督だが、戦術はどこまでもアグレッシブである
ドイツ代表監督を断りスイス代表監督になったその理由。
ドイツが開催国でヒッツフェルトが監督なら鬼に金棒にピストルまで付けたようなもの。ところが、あっさりオファーを断った。「その時期ではない」とか何とか、よくわからない理由で。そのくせ、スイス代表監督のオファーはすんなり受けた。出身地がスイス寄り、現役時代もスイス(バーゼル、ルガーノなど)で活躍したので、心はスイス人なのだそうだ。
彼が率いているスイス代表は守備の固さで知られている。前回大会は史上初の無失点敗退(ベスト16)だった。スイスといえばカテナチオの元だったボルトシステムを考案した国。ヒッツフェルトなら、決勝トーナメント無得点(すべてPK勝ち)で優勝してしまいそうで、恐い。
コロンビアの“ドトール”ルエダ監督がダークホース。
ホンジュラス代表のレイナルド・ルエダ監督はコロンビア人だが、ホンジュラスの英雄となった。
実に28年ぶりのW杯予選突破となった翌日の10月15日は、ホンジュラスの正式な祝日になったほどで国をあげての喜びようなのである。
“ドトール(ポルトガル語で「博士」「医者」の意)”・ルエダはカオス状態だったホンジュラス・サッカー協会内部にもメスを入れ、国の組織そのものにまで規律とチームプレーを叩き込んだのだ。コロンビア人といえばバルデラマしか思い出さない人は、厳格なルエダ監督を見てコロンビア人への認識を新たにするに違いない。
デルボスケ監督が動かなければスペイン優勝は動かない!?
最後はグループHで実力ダントツ、今大会優勝候補最右翼のスペイン。
率いるのは“あの”ビセンテ・デルボスケだ。銀河系と呼ばれた豪華絢爛なレアル・マドリーの監督を4年間務め、2度のCL優勝を果たした。
「何もしない」名監督として有名だ。
クマの着ぐるみみたいな愛らしい巨体でテクニカルエリアに佇み、何もしないで小首を傾げるポーズが定番だった。ラウール、ジダン、フィーゴ、ロナウド、ロベルト・カルロスといった個性の強いスーパースターたちを束ねた手腕は特筆に値する。デルボスケは戦術に明るく、レアル・マドリーという特殊なクラブの裏表を知り尽くし、どんなスーパースターにも媚びず、そして何もしない。スターたちが存分に真価を発揮できるように自由を与えた。
一方でスターが多すぎるゆえに彼らにも汚れ仕事をさせなければならないのだが、そのぎりぎりのバランスをいつも注視していた。実際、小首を傾げたまま常に考え込んでいた。でも、何もしない。その存在が重要なのだ。
もしデルボスケが顔を真っ赤にして怒り、スターたちの怠慢を糾弾するような事態になったとしたら……もう手遅れなのだ。だから、結局デルボスケは何もしない。この監督に何かさせたらチームはオシマイ。選手たちもそこのところを良く分かっていたのだと思う。
今回のスペインもスーパーチームで、たぶんデルボスケは何もしない。
何もすることがないまま終われば、きっとスペインは優勝するだろう。