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アーセナルはどこが問題なのか?
15年目のベンゲルへの不安と期待。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byAction Images/AFLO

posted2011/10/14 10:30

アーセナルはどこが問題なのか?15年目のベンゲルへの不安と期待。<Number Web> photograph by Action Images/AFLO

10月のプレミア初戦でトッテナムに敗れ、ベンゲルに笑顔は戻らなかった。苦しい戦いが続くが、サポーターとフロントの後ろ支えで状況を変えることはできるか

 9月30日で就任15周年を迎えたアーセン・ベンゲル監督。アーセナルでの節目となるべきその日は、あろうことか窮状の真っ只中で訪れた。開幕6試合で2勝3敗1引分けの滑り出しは、ベンゲル体制でのプレミアリーグでは過去最悪。敗戦には第3節マンチェスター・U戦での悪夢の大敗(2-8)も含まれる。アニバーサリー直後のトッテナム戦(1-2)で今季4敗目を記録すると、マンU戦後には「シーズンは始まったばかり。優勝争い参戦は可能だ」と言っていた指揮官も、「優勝云々を語るのは非現実的。4位以内でのCL出場権獲得を目標としなければ」とトーンダウンを余儀なくされた。

 当然の如く、国内では「ベンゲル解雇説」の是非が論じられることになった。開幕直後の順位にあまり意味はないが、7試合で7ポイントのみという結果は、強豪にはあるまじき体たらく。にもかかわらず、解雇は得策ではないとする意見が優勢なのだから、やはり、さすがはベンゲルと言わざるを得ない。

早くも優勝戦線脱落なのに続投論が叫ばれる理由とは?

 少なくとも今季末までは続投すべきとされる主な理由は2つ。1つは、ベンゲルにとって、今回が初めての危機らしい危機であること。1996-1997シーズンに無名監督としてプレミアにやって来たベンゲルは、以降、14年間連続でアーセナルにCL出場権をもたらしている。現役監督の中では別格中の別格であるアレックス・ファーガソン監督でさえ、マンUを中位や下位に低迷させた過去を持っているのだから、ベンゲルがアーセナルにもたらした高度の安定は驚異的だ。

 しかも、育成を重視しながら、2003-2004シーズンには無敗優勝まで成し遂げているのだから奇跡的とさえ言える。そもそも、ベンゲルの存在がなければ、'90年代前半のプレミアで上位と中位を行き来していたアーセナルが、トップ4漏れの可能性を一大事と感じることすらなかった。指揮官には、15年間で初めて到来した本格的な荒波の中で、舵を取り続ける資格があるということだ。

仮にベンゲルを解任したとしても後を継ぐ人材は……?

 2つ目の理由は、即座に後を継げる人材がいない現状。識者やファンの間で名前が挙がるペップ・グアルディオラは、世界一のパスサッカー集団を作り上げた腕の持ち主だが、今季途中でバルセロナから引き抜くことなどまず不可能だ。国内では評価の高いデイビッド・モイーズも、たしかに本質的には攻撃志向だが、プレミア第2集団のエバートンとトップ4常連のアーセナルでは、監督が背負うプレッシャーのレベルが桁違いであり、助走期間のないシーズン途中でのステップアップは至難の業だろう。

 メディアでは「イングランドで現場復帰を果たしたい」という発言を受けて、カルロ・アンチェロッティの名前も急浮上している。だが、チェルシーの前監督は、昨季末の解雇に伴う違約金を満額で受け取ろうと思えば、今季中の再就職は許されないはず。仮に監督としての熱意が金銭欲を上回ったとしても、ロンドン市内のライバルの匂いがする指揮官の就任に対して、アーセナル・ファンの意見が分かれることは必至であり、一致団結が必須となるシーズン途中の監督交代としては理想的ではない。

【次ページ】 攻めのサッカーに固執する監督は守備の再建に否定的。

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