プレミアリーグの時間BACK NUMBER
アーセナルはどこが問題なのか?
15年目のベンゲルへの不安と期待。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAction Images/AFLO
posted2011/10/14 10:30
10月のプレミア初戦でトッテナムに敗れ、ベンゲルに笑顔は戻らなかった。苦しい戦いが続くが、サポーターとフロントの後ろ支えで状況を変えることはできるか
攻めのサッカーに固執する監督は守備の再建に否定的。
続投の条件として守備コーチの採用を求める声があることは事実だ。第7節までの16失点は20チーム中のワースト3、過去2年間で通算5割を超えるセットプレーからの失点率は20チーム中トップと、専門家のヘルプを推奨されても仕方のない数字もある。
だが、これも得策とは言い難い。 ベンゲル時代の初期にベテランCBとして鳴らしたトニー・アダムスは、ベンゲル以前の監督で、鉄壁の4バックを作り上げたジョージ・グラハムを「より有能な監督」と評しているが、守り勝ちを前提とした昔とは異なり、現在のチームには攻めて勝つスタイルに惹かれて結集した選手が揃っている。守備コーチが、ボールも使わず、局面ごとの最終ラインの位置を徹底し、ユース選手9名対4バックで連動具合を確認するようなグラハムばりの練習を繰り返せば、選手たちは嫌気がさしてしまうだろう。過去15年間で築き上げたスタイルを否定するかのようなアプローチには、ベンゲル自身、「その手の意見には反応する気にもならない」と嫌悪感さえ示している。
失点を防ぐカギは守備陣を牽引するリーダーにあり。
では、ベンゲル路線のままで、今季中のアーセナル蘇生はあるのか?
問題の守備面に関しては、10月末に予定されているトーマス・ベルメーレンの戦線復帰に期待が掛る。新CBのペア・メルテザッカーは、ブンデスリーガよりもスピードのあるプレミアへの適応段階にあり、バカリ・サニャのひ骨骨折で出場機会が増える右SBのカール・ジェンキンソンは19歳と、序盤戦の最終ラインは、ある程度の失点を覚悟しなければならない状態だが、アダムスと共に活躍した名DF、マーティン・キーオンのように「リーダーシップがあれば大半の失点は防げる」と言う識者もいるのだ。
例えば、まさかの逆転負けを喫した第5節ブラックバーン戦(3-4)では、FKとCKの場面でマークの徹底を促す守備のリーダーがいれば、2点は失点数を削減できた。トッテナム戦でも、敵のスローイン時に守備モードへの切り替えを周囲に促す声があれば、カイル・ウォーカーに決勝のミドルを打つ時間とスペースを与えることはなかっただろう。
エースのファンペルシも苦境に陥った恩師を支える。
攻撃面では、セスク・ファブレガス(現バルセロナ)とサミル・ナスリ(現マンC)を失った影響を否定することはできないが、持ち味の似ている両者が揃ってピッチ上で活躍したと言える試合が多くはないことも事実だ。
新たな中枢となるべきジャック・ウィルシャーが年明けまで欠場する現実は厳しいが、ミケル・アルテタという即戦力の加入により、致命傷ではなくなっている。実力と経験のあるベテランMFは、CL戦2試合を含む移籍後の6試合で、チャンスメイクにチェイシングにと、1得点という数字には表れていない貢献度の高さを示している。敗戦という結果によるショックが大きかったトッテナムとのダービーにしても、試合内容では全く負けていなかった。
最前線では、ロビン・ファンペルシが、CL本選行きを決めたウディネーゼ戦(2-1)でのゴールに始まり、9月末までに、要所で新キャプテンとしての意地を見せる5得点。1月にもマンC入りとの噂があるが、その発端は「今は契約延長交渉など二の次」という、試合への集中を最優先した発言だ。過去にも、「選手として恩があるアーセンがいる限り」と、指揮官への忠誠を理由に残留してきたエースが、過去最大の苦境に陥っている恩師をシーズン半ばにして見捨てるとは思えない。