レアル・マドリーの真実BACK NUMBER
戦う集団の証明――反則の増加。
text by
木村浩嗣Hirotsugu Kimura
photograph byAFLO
posted2005/02/10 00:00
ルシェンブルゴのレアル・マドリーが止まらない。
好調エスパニョールにも勝ってリーグ6連勝(6分間だけのレアル・ソシエダ戦を含む)。これは新任監督の歴代記録に並ぶもので、バルセロナとの勝ち点差も4に縮まった。
“ルシェンブルゴ魔術”などと呼ばれているが、ルシェンブルゴはマジシャンではなく、“魔術”には必ずトリックがある。
今回はそのトリックの1つを解き明かしてみよう。
前回のレポートで私は、「優雅なサッカー貴族たちは地に足が着いたサッカー選手へ、才能の寄せ集めは目的を持った戦うチームへ姿を変えようとしている」と書いた。
サッカーを含めスポーツジャーナリズムの世界では、“戦うチーム”あるいは“戦う集団”という常套句はしばしば情緒的に、確固たる根拠を示されることなく使われるが、今回のレアル・マドリーの場合は、はっきりとそれを裏づけるデータがある。
それがファールの数だ。
ルシェンブルゴが就任してから、犯す反則の数が激増しているのだ。就任後5試合(レアル・ソシエダ戦を除く)の総反則数は107、1試合あたりなんと21.4個にもなる。
これは大変な数字だ。
ちなみに、カルロス・ケイロスに率いられた昨季は1試合平均16.6個でリーグ最下位、デル・ボスケ時代の一昨年は同17.2個で18位。今季にしても、サムエルがいかに反則を連発したところで、カマーチョ、ガルシア・レモン時代には同15.7個と昨季のペースすら下回っていた。
ところが、ルシェンブルゴがベンチに座ったとたん、一気に6個近くも増えているのだ。
連勝街道は反則街道でもある。
先週のエスパニョール戦で犯した反則25は今季最多。サラゴサ戦の23は同2位、アトレティコ・マドリー戦は同3位タイと、ルシェンブルゴはこちらでも記録更新を続けている。
とはいえ、両チームで反則が連発する、いわゆる“荒れた試合”があった訳ではない。
むしろ、ロナウドやフィーゴが反則で削られる数は1試合あたり16.1個から14個と逆に減少。荒れているのは、試合ではなくルシェンブルゴに率いられた銀河系軍団の方なのだ。
カマーチョ、ガルシア・レモン時代には、レアル・マドリーの反則数が相手のそれを上回ったのは8試合(17試合中)しかなかったが、ルシェンブルゴの場合は5試合すべてがそう。エスパニョール戦のその差14(犯した反則数と受けたそれの差)は今季最多であり、サラゴサ戦の同12は今季2位と、やはり記録ラッシュだ。
間違いなく、ルシェンブルゴはレアル・マドリーを変えた。
その変化はあまりに劇的で、このまま行けば“反則の少ないクリーンなチーム”という伝統的なイメージすらも見直さざるを得ない。
が、私は、レアル・マドリーのこの変化を支持する。
反則はしない方がいいに決まっている。
足を引っ掛けてプレーを止めるよりも、テクニックでボールを奪い取る方が遥かに高度であり、プロにはそのレベルを期待しているし、審判の笛による頻繁な中断は、エンターテイメントとしてのゲームの美しさやドラマチックさを損なう、と私は思う。
しかし、一方でシビアなプロの世界だからこそ、反則を辞さない勝負への執念も見せて欲しい。
その主人公が“銀河系の戦士”と呼ばれるスーパースターたちならなお更、必死にボールを追い、フィジカルコンタクトを恐れず体を入れ、がむしゃらなスライディングタックルする姿を見たい。その結果、審判の笛が吹かれたとしても、“ボールを追わない、走らない”の無気力なプレーよりはずっと美しく尊い。
ルシェンブルゴは、守備的ミッドフィルダー(グラベセン)を獲り、システムを変え(4-2-3-1から4-1-3-2へ)、最終ラインを上げ(コンパクトスペースづくり)、セットプレーのバリエーションを増やした。
だが、彼のここまで最大の功績は、銀河系の戦士の意識改造に成功したことだと思う。その成果は数字が証明している。