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バスケット日本代表 キリンカップでは桜井を見よ!
text by
小尾慶一Keiichi Obi
posted2005/07/19 00:00
「華」のある選手を見たくないか?
プレーのひとつひとつに輝きがあり、バスケットの初心者にも魅力が伝わるような選手。ファンを試合会場に引き寄せ、もう一度見に来たいと思わせる、そんな選手。
男子日本代表チームには、そういう存在になれる男がいる。
彼のプレーを見た者は、まず、華麗なスラムダンクに驚かされる。194cm、75キロの身体がふわりと浮かび上がり、息を呑む間もなく高さ305cmのリングに到達するのだ。迫力というよりも、軽やかさが際立つダンクシュート。国際試合の厳しい闘いの中、スピードに乗ったドリブルでコートを駆け抜け、鮮やかに舞ってみせる。
それが、22歳の桜井良太である。
四日市工業高校時代、桜井は51得点をあげる活躍で能代工業高校を撃破し、その名を全国に知らしめた。愛知学泉大学を経て、この春からJBLの名門トヨタ自動車に入団したが、練習に出る時間はあまりない。代表チームの強化合宿でみっちりとしごかれているからだ。
代表の指揮を取るのは、クロアチア人ヘッドコーチのジェリコ・パブリセヴィッチだ。彼が選手選考に深く関わるようになったのは、就任2年目の04年。それは桜井が初めて代表入りを果した年でもある。ジェリコに見出された、と言ってもいい。
代表でのポジションはシューティングガード(SG)。今春の合宿から、ジェリコの指示でポイントガード(PG)の練習も始めた。
「世界の基準でいうと、桜井はPGやSGでプレーする選手です」とジェリコは言う。「普通、日本では(194cmの選手は)スモールフォワード(SF)やSGになりますが、私はPGかSGという線で考えていこうと思います。彼にはそれだけの能力がある。アジア全体で考えても、そういう選手は少ないですね」
NBAでは、昨季、プレイオフ出場チームの先発PGの平均身長は189cmだった。これは登録上の身長を計算したものなので、実際は186cm程度と見ていいだろう。シューズの高さを差し引けば、数字はさらに下がるはずだ。素足で193cmという桜井が順調に成長すれば、運動能力とサイズの両面でハンデのない日本人選手が誕生することになる。
桜井自身も初めて経験するPGを楽しんでいるようだ。1ヶ月に及ぶ初夏のヨーロッパ遠征では、コロシカ・ブレバレ戦でPGとして出場。7アシストを記録した。
「リバウンドをセンターが取って、すぐに自分がボールをもらって、速い展開で相手に攻め込めるのがすごく楽しかった」と桜井は言う。「PGとして出るのはその1試合だけでしたが、練習中はかなりやらせてもらってます。今のところは、7対3ぐらいでSGの練習の方が多いですけど」
PG転向の話を聞くまで、桜井は流川楓のような選手だ、とぼくはずっと思っていた。流川とは、超人気漫画『スラムダンク』の人気キャラで、爆発的な得点能力を持つスコアラーである。しかし、桜井の本質はもう1人の人気キャラである仙道彰に近いようだ。
「仙道の方が好きなんですよ」と桜井は言う。この世代のバスケット選手の例にもれず、やはり彼も同書を読み込んでいた。「ほわんとした性格とか、周りを生かす大人のプレーが好きですね」
『スラムダンク』の中で、仙道は得点力とパスのセンスを併せ持つ選手として描かれている。190cmの身長ながら、桜井のようにPGもプレーした。同書は未完に近い形で終わったが、もしかすると、ぼくらは桜井を通してその続きを目撃することになるかもしれない。
7月21日に開催するキリンカップは、そんな桜井のプレーを見る絶好の機会である。キリンカップは強豪国の代表チームを迎えて行なわれる国際試合で、来年の世界選手権を占う意味でも重要な大会だ。今年対戦するのは、FIBA世界ランキング8位のオーストラリア代表。ランキング23位の日本にとって、厳しい試合になるのは間違いない。
それに向けて、チーム内でもポジションを巡る闘いが始まっている。桜井もスターターの座を約束されているわけではない。PGには、スピードスターの五十嵐、平面の運動能力では桜井をもしのぐ柏木、正確なシュートを武器に各世代の代表チームに選ばれてきた柏倉がいる。SGには、JBLを代表するシューターの仲村と梶山、天性の得点力を持つ川村がいる。川村以外は皆、桜井より年上で、選手としての経験も豊富である。
「桜井は成長していますが、もう少し時間が経たないと、どういう選手になるのかわからない部分もある」とジェリコも釘をさす。「彼には経験が必要です」
桜井に必要なものはそれだけではない。外からのシュート成功率をあげること、当たり負けしない身体を作ること、ディフェンスに集中すること。課題は山ほどある。
だが、それでも、話は最終的に彼の魅力に戻るのだ。
「桜井は素晴らしい才能を持っている」とジェリコは言う。「将来はきっと、ファンを惹きつける選手に成長するはずです」
「華」と「実力」が溶け合う瞬間を、ファンは今か今かと待っているのである。