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ジーコ采配 海外組み偏重の功罪。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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posted2004/04/12 00:00

 ドイツワールドカップのアジア1次予選でオマーンとシンガポールに苦戦したというので、代表監督のジーコに対する批判がまた大きくなっている。

 両国ともワールドランキングでは日本より格下で、シンガポールなどは日本の27位に対して108位なのだから、その格からいえば圧勝しなければならない相手だった。それが一度は同点にされ、後半の37分にやっと1点を取っての勝利だったのだから、批判が出るのは当然といえる。

 その心の底にあるのは、1次予選でこのていたらくでは、かりに1次予選を勝ち抜いたとしても、2次予選はどうなるのかといういらだちだろう。ぼくも一抹の不安を覚えないわけではない。

 ジーコに対しては、従来から選手の自由にまかせて、具体的な戦術を与えないという批判があった(前監督のトルシエは、戦術ばかり強制して、選手に自由を与えないと批判された)。それに、この2戦の結果から、そろそろ海外組重視のチーム編成はやめたらどうかという批判が加わったのである。

 たしかにジーコは海外のクラブにいる選手を重視する傾向がある。オマーン戦では、稲本、中田、中村、柳沢、高原の5人、シンガポール戦ではそこに小野を加えて、6人の海外組を先発させた。彼らの体調は万全ではなかった。あたりまえだ。彼らは直前まで所属するクラブの試合に出て、そこから飛行場に駆けつけて代表戦の前日に日本に戻ってくるというような、綱渡りのようなスケジュールで動いているのである。中田などは、シンガポール戦の前後の15日間でじつに5試合をこなしている。それですべての試合で万全の体調を保つことができたら、そのほうがおかしい。

 だから万全の体調を望めない彼らを使うのはやめて、国内でいい体調を整えられる国内組の選手を使えと批判者はいうのである。一理ある意見といえる。ぼくもそう思わないでもない。しかしそうした場合、こんどはつぎのような問題が生じることをわれわれは考慮しておかなければならない。

 それで2次予選を勝ち抜いたとして、本番のワールドカップではどういう選手でチームを編成するのかということだ。予選を勝ち抜いた国内組で行くのか、予選を戦わなかった海外組を加えるのか。なんとも悩ましい問題で、僕などにはとても答が見つからない。

 フランスワールドカップのときまではすべての選手が国内にいたし、日韓ワールドカップのときは予選を免除されていたから、こういう問題は生じなかった。しかしいまはガラリと状況が変わったのである。

 いうなればブラジルが置かれているのとよく似た状況だ。日韓ワールドカップの南米予選のとき、代表選手のほとんどがヨーロッパのクラブに所属しているブラジルは、予選で敗退するのではないかと思われたほど苦戦した。しかし選手が揃い、体調を整えた本番では圧倒的な強さで優勝した。

 こんどの予選でも苦戦しているらしい。3月31日のパラグアイ戦では、ロナウド、ロウナウジーニョ、カカの前線の3人が揃って出場したが、それでも0対0の引き分けだった。3人がチームに合流したのは試合前日で、練習したのはわずか30分。試合後、カカは困惑顔でつぎのように語ったという。「自分たちの所属クラブでやっているようなプレーを期待されても困る」

 目下、ブラジルは予選3位に低迷しているときく。

 何10年もこの問題に悩んでいるブラジルでさえ、まだその答を見つけ出していないのである。

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