野球善哉BACK NUMBER
勝つべくして勝った中京大中京。
「一球一打」への異常な集中力。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/08/25 12:05
ピンチの後にチャンスがあるように、チャンスの後にピンチがある。
そして得点の後に失点が、失点の後に得点があるのも、また事実である。
精神性が大きくモノをいう高校野球においては、ピンチを乗り切れば気持ちが盛り上がり、チャンスを潰されると気持ちが受けに回る。得点を奪われると、あっという間にお尻に火がつくものなのだ。
夏の甲子園にドラマが多いのは、メンタルの未成熟な高校生においては熱くなった感情のやりとりが一方通行で終わらないからだ。プロのように論理で冷静に抑えつけるということがなかなかできない。
だから、そうした勝利の行方がめまぐるしく動く中で、特に重要なポイントをどう抑えていくかに勝利は懸っている。
「ここ一番」で打てるか。
「ここ一番」で守れるか。
中京大中京の「ここ一番」での勝負強さ。
中京大中京、43年ぶりの全国制覇には、彼らの「一球一打」への執念がものをいった。
僅少差が2試合のみで他は圧勝しているが、点差というよりもここ一番での勝負強さが際立つ。6試合すべてで先制点を奪い、リードを許したのは2回戦・関西学院相手の5回からの1イニングだけ。大会を通して奪った併殺が6試合で6個もあったのが、何より見事な成績に映る。
準々決勝の都城商戦では2点差に追い上げられたなかで、1死二塁から、二塁走者をタッチプレーで刺しての併殺という惚れ惚れするほど見事なプレーを成立させた。しかも準決勝の花巻東戦では、スクイズから併殺を導くなどして2併殺を記録。ここ一番をきっちり打って、守って、力強く勝利を手繰り寄せてきたのだ。
準決勝を終えた時に、山中渉伍主将(写真)がこんな話をしていた。
「この1球をしっかり守って、この1球でしっかり決められているところが、(ベスト8敗退の)春とは違うところ。決勝は全国2校しかない戦い。僕たちの代は二校しか残っていないわけですから、全国の高校球児の思いを乗せて、一球一打に懸けて、試合に臨む」
ハイライトは9回ではない。6回表裏に結果は出ていた。
決勝戦の試合を分けたのも、「一球一打」である。
ハイライトは2-2の同点で迎えた6回表裏の攻防にあったといっていい。
顕著に差が出たのは両チームの守備。6回表、日本文理の攻撃は1死二、三塁から強烈な遊撃ゴロを打ったが中京大中京の遊撃手・山中が難なくさばき、本塁でアウトにした。直後、中京大中京が5安打を集めて6点を奪った中には、日本文理の内野手がはじいた末の安打が2つ、内野安打が1本あった。うちひとつは、高くバウンドしたやや一塁よりの投手ゴロで一塁ベースが空くという場面があり、その直後、走者一掃の3点適時打が出ている。得点直後の7回表、日本文理は無死からの3連打で反撃の1点を奪ったが、ここでも、中京大中京は併殺で反撃を食い止めている。