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小林繁、藪恵壹、遠山奨志……。
「○○キラー」の快投は消えたのか? 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

PROFILE

photograph byMAINICHI SHIMBUN

posted2010/01/31 08:00

'79、'80年の2シーズンで、41打数8安打(.195)と徹底的に抑えられた王貞治氏。「短い期間でしたが、阪神で一時代を築かれた好投手でした。これから後進の指導や多くの子供たちに野球の素晴らしさを伝えてほしかった」と死去に際してコメントした王氏

シュートを武器に松井秀喜を封じ込めた遠山奨志の職人技。

 藪が「必殺キラー」だとすれば、遠山奨志は「職人キラー」だった。有名な話だが、松井秀喜に「顔を見るのも嫌だ」と言わしめた男が遠山だった。

 '99年から監督に就任した野村克也に、「プロで生き残りたければ変わりなさい」と諭されシュートを習得。得意としていたスライダーとのコンビネーションが冴え、高橋由伸や清水隆行(現・崇行)ら左打者に滅法強かった。特に松井に対しては13打数無安打。「満塁策をとり松井勝負」といった展開を用意されるなど、チームから絶対的な信頼感を得た。

 '00年、22打席目にして松井に初本塁打を許したことで徐々にキラーぶりは薄れていくが、暗黒時代の真っ只中にいた阪神にとって、遠山は巨人をぎゃふんと言わせられる唯一の武器だった。

今の球界に必要なのは、憎らしくも凄い「必殺仕事人」だ!

 今、ふと考えてみる。「キラー」と呼ばれる投手はいるだろうか、と。恐らくいない。

 ここ数年、印象に残っているといえば、'07年に金光大阪の植松優友(現ロッテ)が大阪桐蔭の中田翔(現日本ハム)を13打数無安打に抑えたことで、「中田キラー」と呼ばれた。だが、「高校時代に対戦したなかで一番印象に残る投手は?」の質問に対し、中田は「日本文理の栗山(賢)のスライダーはすごかった」と植松の名を挙げなかった。

 プロでは、去年のパ・リーグ首位打者の鉄平が、日本ハムの武田勝に対し通算35打数4安打(プレーオフ含む)と大の苦手にしているものの、一般的なイメージとしては薄い。

 キラーとは、単に対戦成績がいいだけではなく、憎まれるくらい強い存在でなければならない。

 近年のプロ野球は、先発ならば「巨人キラー」や「阪神キラー」とチーム単位でのキラーしか存在していない。中継ぎも「勝利の方程式」が象徴するように分業制が確立されている。チームの勝利あってこその当然の戦略ではあるが、やっぱりファンとしては、罵声や憎まれ口を叩かれようともふてぶてしくマウンドに立つキラーの姿を拝みたい。

 相手はやっぱり強者がいい。今シーズンならば、昨年の覇者・巨人がそれに該当する。ラミレスや小笠原道大、阿部慎之助の腰を砕き、憎まれる「必殺仕事人」は現れるか? いや、現れてほしい。

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